TIPS/テクニック

ホーム・レコーディング・ガイド Part 4: エフェクトとオートメーション

ホーム・レコーディング・ガイド・シリーズの最終回は、エフェクトとオートメーション、そしてそれらが実現する自由について紹介します。レコーディングに役立つ情報を紹介してきた、これまでのエントリー (Part 1: コンピューター、Part 2: マイクの選択、Part 3:DAWソフトウェア)も忘れずにチェックしてください。

By Philip De Lancie

DAWソフトウェアを取り上げた前回の記事では、デジタル・オーディオ・ワークステーション (DAW) の基本的なタスクを定義し、Propellerhead® Record® ソフトウェアを使って、そうしたタスクがどのように扱われるかを紹介しました。今回は、これまで紹介してこなかったタスクである、エフェクトの適用とオートメーションの活用について見ていきましょう。DAWとしてはRecordを、またエフェクトのソースとしてはLine 6 POD Farm™ 2を使います。

エフェクトは、個々の楽器 (例えばギター)、または最終ミックスで使用される楽器の組み合わせのサウンドを変えるために使用されます。エフェクトは微妙で味わい深く、あるいはワイルドで目の前に来るようにするなど、楽器に特定のキャラクターを与え、またリバーブやコーラスなどの空間系エフェクトでは、ミックスのサウンド空間内で認識される位置関係 (近い、遠い) を変更します。

モダンなDAWが登場する以前は、リバーブ/エコーやコンプレッションなどを除き、エフェクトはレコーディング中に楽器へかけられていました。例えばギターの場合、アンプのセッティングやペダル、マイキングなどのコンビネーションによりスタジオ内で求めるサウンドが作られ、エンジニアの仕事は、そのサウンドをキャプチャーすることでした。後で、そのエフェクトが適切でないということになった場合は、それで何とかするか、演奏を録音し直すかのどちらかを行う必要がありました。

最近では、ホーム・レコーディングを行う人にとっても、トラックの一部としてレコーディングされたエフェクトに縛られることはなくなりました。トラックを“ドライ”な状態で録音しておき、エフェクトは後からDAWソフトウェア内でかけられるため、トラックとエフェクトは独立してコントロールできる状態になっています。このアプローチだと、エフェクトをプリセットとして保存しておき、常に全く同じサウンドにすることができます (これはロータリー・ノブの付いたハードウェア機器では不可能です)。また、Recordを含む大抵のDAWにおいて、ソフトウェア内でかけられたエフェクトは、オートメーションが可能です。つまり、曲の進行に沿ってセッティングを変更すると (例えばヴァースとコーラスで変更すると)、その変更がDAWに記憶され、トラックを再生する度に毎回実行されるのです。

トーンの設定

このように録音済みのトラックへエフェクトをかけることが可能ですが、常にトラックをドライな状態で (エフェクト無しに) レコーディングする必要はありません。Line 6の POD Studio™ レコーディング・インターフェースを使用している場合は、同梱されているPOD Farm 2ソフトウェアがどちらの方法でも動作するため、一方のアプローチを選ぶ必要はありません。ドライでレコーディングする場合でもPOD Farmはエフェクト付きでモニタリング可能なため、必要とするサウンドを聞きながら演奏を行えるのです。

では、ギター・パートをレコーディングしているとしましょう。演奏中に聴きたいと感じるサウンドそのものが得られるようにトーンを調整するため、まずはPOD Farm 2の準備をします:

» POD Studioインターフェースのインストゥルメント入力へ接続します。

» スタンドアローンのPOD Farm 2アプリケーションを起動します。

» POD Farm 2のトップにあるMain Control Bar内のMixer Viewボタン (Line 6ロゴのすぐ右側) をクリックします。初期状態ではシングルトーン・モード (Tone Preset Menu右側のDualスイッチがオフ) なので、Tone Aへ入力されます。

» Tone A Input Source Menu (ロゴの左下) でInstrument (インターフェースへ接続した入力) を選択します。

ここでギターを適切なレベルに設定します:

» POD Farmウィンドウの下半分にあるSignal Flowビューに、現在のトーンを構成するコンポーネント (アンプ、コンプレッサーなど) が表示されています。各コンポーネントは左から右へ接続されています。

» 各コンポーネントを右クリックして、ポップアップ・メニューから Bypass を選択します。これによりギター・シグナルが完全にドライなものになり、インターフェースはレーテンシーフリーのインターフェースとして機能します (ボーカルやアコースティック楽器のレコーディングに便利です)。

» ギターのボリュームをフルに調整し、最大音量の際にInputメーターが0よりわずかに低くなるよう、Tone A Levelノブを設定します。

» 演奏中にTone A出力メーターのクリップ・インジケーターが点灯する場合は、Tone Aの出力フェーダー (Muteボタンの下) を下げます。

» インターフェースの出力ノブを使って、スピーカーやヘッドフォンでのモニタリング・レベルを設定します (この設定はDAWへ送られるレベルには影響しません)。

この時点では、POD Farm 2によるプロセッシングが行われていない状態のギターのサウンドが聞こえます。ここでギター・パート用のトーンを選択し、お好みのトーンへ調整しましょう:

» Panelビューへ切り替えます (Line 6ロゴ左側の2番目のボタン)

» POD Farm 2ウィンドウのTone Preset Menuから、プリセット (例えば21st Century Clean) を選択します。デュアル・トーンを選択した場合は、そのトーンを適用したギターをレコーディングできますが、Record内の録音済みのトラックに対して、そのデュアル・トーンをエフェクトとして適用しているのではない点に注意してください (プラグインをサポートするDAW内でPOD Farm 2を使用した場合には、こうしたデュアル・トーンの制限はありません)。

» トーンを選択すると、Signal Flowビューには新しいトーンのコンポーネントが表示されます。コンポーネント (例えばアンプ) をクリックして選択します。コンポーネントの名称は、Line 6ロゴの下にあるドロップダウのModel Menu内に表示されます。

» 現在選択されているコンポーネントのパラメーターを変更することで、プリセットをカスタマイズできます。メイン・アンプが選択されている場合、アンプのセッティングを調整できるだけでなく、CAB (Model Menuの右側のボタン) に切り替えて、バーチャル・スピーカー・キャビネットやマイク、マイキングの設定も行えます。

» トーンはボリュームに影響を与えるので、Mixerビューに戻ってレベルを再度チェックします。

» 満足するトーンが得られたら、上部のフォルダ・アイコン (Tone Preset Menuの左側) をクリックしてSave As を選択することで、プリセットとして保存できます。

エフェクトあり、無しでトラッキング

トーンを安全に保存したので、トラックをレコーディングする2種類の異なるアプローチを見て行きましょう。まずは楽器とエフェクトを一緒にレコーディングします:

» Pod Farm 2をMixerビューに切り替えると、上半分の右側に2つのRECセクションが表示されます。それぞれにレベル・フェーダーと、どのシグナルをDAWに送るかを選択するドロップダウン・メニューが用意されています。

» シングル・トーンを使っている場合は、SEND 1-2はTone Aを示しています。デュアル・トーンを使っている場合はTone A+Bになります。

» 必要に応じて1-2レベルがクリップしない範囲でメーターが最大値付近になるよう調整します。

Propellerhead Recordを起動して、新規作成したオーディオ・トラックのレコーディングが行えるようにセットアップします (DAWソフトウェアの回の「オーディオのオーバーダビング」の項を参照):

» レコーディング中にはPOD Studioインターフェース経由でサウンドをモニタリングするので、Recordの「環境設定」 (「編集」メニュー) にある「オーディオ」ページで「モニタリング」を「外部」に設定します。

» Recordのシーケンサー・ウィンドウで、ドロップダウンの「オーディオ入力を選択」メニュー (トラックの水平なメーターの左側)で新規トラックのソースを確認します。デュアル・トーンを使っている場合は、トラックの入力をステレオ、ソースをSend 1 + Send 2に設定します。もしくは、Send 1からモノに設定します。

ギター・トラックをレコーディングします (必要に応じてトランスポート内でクリックを有効にします)。レコーディング中には、ギターは先ほど設定したPOD Farm 2のトーンで聞こえます。POD StudioインターフェースにはToneDirect™ モニタリング機能が搭載されているため、レーテンシーはほぼゼロです。レコーディング中の聞こえるギターのボリュームを設定するには、POD Farm 2のMixerビューの右上にあるメーター隣のOutノブを使います。レコーディングしたクリップを再生する際、ギター・サウンドはPOD Farm 2内で聞こえたものと同じです (エフェクトは既にかかっています)。トラックの再生レベルは、Recordのメインミキサー・ウィンドウ内で調整できます。

次にドライ・ギター・トラックをレコーディングします。ここでもToneDirectモニタリングにより、演奏中、レコーディング中には選択したトーンが聞こえますが、トラックへ実際にレコーディングされるのは、シグナルのドライ部分のみです:

» POD FarmのMixerビューで、SEND 1-2のドロップダウンでDry Input (エフェクト無し)を選択します。

» エフェクトが外されると恐らくレベルが下がるので、Send 1-2レベルを再度調整します。

» Record内で新規オーディオ・トラックを作成し、ドライなPOD Farmセンドをレコーディングします。

» レコーディングされたクリップを再生すると、ギターはPOD Farm内でシグナル・フロー内の全コンポーネントをバイパスした際と同様のドライなサウンドになります。

エフェクト無しにクリップをレコーディングするのは、再度演奏することなく、サウンドで後で変えられる自由度を維持するためです。では、DAW内でドライ・トラックへエフェクトを追加してみましょう。Avid® Pro Tools® 9など、多くのDAWにおいては、ギター・トラック上でPOD Farm 2をプラグインとして実行することによりエフェクトを追加できます。Recordではサードパーティ製プラグインは使用できませんが、POD Farm 2トーンはLine 6 Guitar Ampと呼ばれるラック・ディバイスでPOD Farm 2トーンを使用できますが、これはスタンドアローンのPOD Farm 2とは異なるユーザー・インターフェースになっています。

Line 6 Guitar Ampを使用してドライ・トラックへPOD Farm 2トーンを適用する方法を紹介しましょう:

» Recordをラック・ウィンドウへ切り替えて、ギター・トラックであるディバイス(名前を付けていない場合は“オーディオトラック1”となります)を選択(クリック)します。ディバイスの外枠がエレクトリック・ブルーで囲まれます。

» 作成メニューからLine 6 Guitar Ampを選択します。ギター・トラック・ディバイスを拡張すると、ラック内の下にアンプ・モジュールが表示されます。

» アンプ・モジュールでパッチを読み込みボタン (ディスプレイ・エリア右のフォルダ・アイコン) をクリックすると、ダイアログが開きます。

» Line 6/Tones/Pod Farm 2フォルダなど、POD Farm 2トーン・ファイル (.l6t) が収められたフォルダ (ドキュメントまたはマイドキュメント・フォルダ) へナビゲートします。このフォルダ内に、エフェクト・プリセット用のトーン・ファイルが表示されます。特定のLine 6ハードウェアのオーナーは、Recordへ付属するデフォルト・トーンに加えて、追加トーンへアクセスできます。Recordを最初にLine 6ハードウェアと共に使う際、Recordで使用するするためにトーンのアクティベートが必要になることがあります。

» ギター・トラックへ適用するプリセット (例えば21st Century Clean.l6t) を選択します (現時点ではデュアル・トーンのプリセットはRecordにサポートされていないため、デュアル・トーン・ファイルは選択できません)。

» トラックを再生すると、そのトラックのギターにエフェクトがかかって聞こえます。ドライとプロセスされたサウンドを比較するには、トラックのディバイス上のBypassボタンを使います。

エフェクト・パラメーターのオートメーション

トーンへエフェクトを適用することによる追加のメリットは、楽器を演奏したりトラックをレコーディングしたりしている際にはコントロールが難しい、あるいは不可能なサウンドの変化を実現できることにあります。例えば、ヴァースではクリーンなギター・サウンド、コーラスではもっとオーバードライブしたエフェクトを使いたいとします。Recordでは、Line 6 Guitar AmpのDrive設定の変化を、“パラメーター・オートメーション”をレコーディングすることで実現できます:

» Recordのラック・ウィンドウで、アンプのDriveノブを右クリックして、ポップアップ・メニューから「オートメーション」を編集を選択します。ノブが明るい緑色に縁取られます。

» シーケンサー・ウィンドウへ切り替えると、Guitar Amp 1という名前の新しいトラックが表示されます。パラメーター・オートメーションの有効化ボタンをクリックします (トラックのソロ・ボタンの右横です)。

» ラック・ウィンドウへ戻ります。一番下のトランスポートでレコード・ボタンをクリックしてレコーディングを開始します。トラックの再生中にDriveノブを動かしてセッティングを変更します。

» 変更をレコーディングしたら、ストップしてトラックを再生してみます。Driveノブが、前回動かした通りに動き、Driveセッティングの変化が音として聞こえます。

Recordのシーケンサー・ウィンドウに戻ると、Guitar Amp 1トラックのオートメーション・レーンが“Drive”とラベリングされています。このレーンには、レコーディングしたDriveの変化がラインで表現されたオートメーション・クリップが収められています。このラインをエディットすることで、Driveの変化のタイミングと量を変更できます:

» クリップをダブルクックします。ライン上にポイント (小さな白い丸) のセットが表示されます。

» クリックまたは右クリックで個々のポイントを選択でき、またクリップの一部をクリックドラッグすることでポイントのグループを選択できます。

» 選択するとポイントが白から黒に変わり、シーケンサー・ウィンドウ上部のフィールドに始点と値が表示されます。選択したポイントはドラッグして移動、Backspaceで削除できます。

» セクションの境界 (例えばヴァースからコーラス) でDriveをシャープに変更したい場合は、マニュアルでレコーディングしたポイントの多くを削除することで、よりクリーンなラインを作成できます。

» レコーディングしていないポイントを追加することで、オートメーションをドローイングすることもできます。シーケンサー・ウィンドウの左上にある鉛筆ツール・ボタンをクリックし、次にポイントを追加したい場所をクリックします。その後、ポイントを好きな場所と値にドラッグします。

» 楽曲のパラメーター・オートメーション・クリップにカバーされていないパートのDriveセッティングを調整するには、シーケンサー・ウィンドウの左上にある「エディット」モード・ボタンをクリックします。レーンの左側に表示される固定値ハンドルを使い、必要に応じて調整を行います。

ここで紹介したオートメーション・テクニックは、Driveだけでなくボリュームやトーン・コントロール (Bass、Middle、Treble、Presence)、Wahなど、Line 6 Guitar Ampディバイスのどのパラメーターにも適用できます。これにより、RecordでサポートされたPOD Farm 2トーンを、どのようにドライ・トラックへ適用するかを自由にコントロールできます。

また、こうしてトラックに対してギター・トーンの適用をコントロールしたオートメーション・テクニックは、Record内のその他のコントロールにも適用できます。例えば楽曲のミキシングの際、フェーダーやパン、エフェクト・センド、EQ、ダイナミクスなど、Mixerビューの大半のコントロールをオートメーションできます。

ミックス・オートメーションは、オリジナル・トラック内のレベル変更を補正することにより、楽器のブレンドを助けるためにも使用できます。また楽曲の異なるセクションにおいて、相対的なトラック・レベルを変化させることで異なる音楽要素を持ち上げ、楽曲にバラエティを加えることができます。もちろん、ミキシングのオートメーションには、1回の記事ではカバーし切れない様々な側面があり、オートメーションの基本コンセプトは、DAWにより異なっている場合もありますが、今回紹介した内容をもとにアイディアを実験でき、それが読者のパーソナル・スタジオで役立つことを願っています。そして、それこそがホーム・レコーディングで重要なことなのです。

フィリップ・デ・ランシー氏は、オーディオおよびマルチメディアの制作/ディストリビューション全般を専門とするフリーランス・ライターです。プロ向けの出版物に定期的に掲載されている彼の文章には、オーディオ・エンジニアリングとマルチメディア制作におけるプロとしての実績が活かされています。

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