TIPS/テクニック

ホーム・レコーディング・ガイド Part 3: DAWソフトウェア

皆さんは自分に最適なDAWソフトウェアをお使いでしょうか? 今回のホーム・レコーディング連載では、ソフトウェアの様々なオプションを紹介するとともに、皆さんが興味を持つであろうソフトウェアを、ステップ毎に説明します。この連載のPart 1 (コンピューター)、Part 2 (マイクの選択) も是非お読みください。

By Philip De Lancie

この連載では、これまでにホーム・レコーディング用のコンピューターマイクの選択について紹介してきました。今回はホーム・レコーディングのセットアップに不可欠な、その他の要素を取り上げます。オーディオ・インターフェースについて簡単に触れた後、コンピューターをDAW (デジタル・オーディオ・ワークステーション) として使うためのソフトウェアを詳しく見て行きましょう。

現在のDAWは、コンピューターがホストするハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって以下のようなタスクを処理しています:

変換 — 外部の楽器やマイクからのオーディオ信号を、コンピューターに取り込む際にデジタル・データに変換し、出力する際にはアナログ信号に戻します
レコーディングと再生 — オーディオ・データは、コンピューターのハードディスクにストアされ、そこから再生されます。
シンセシスとサンプリング — “ソフトウェア・インストゥルメント”のサウンドは、サンプリング (実際に録音したサウンドを使用) またはシンセシス (波形の変更や組み合わせる) によりコンピューターから再生されます。
シーケンシング — コンピューターでのソフトウェア・インストゥルメントの再生や、外部機器 (MIDIキーボードや音源モジュールなど) の再生のコントロールを行う、MIDIデータのストアと保存を行います。
編集 — 録音したサウンドをコピー、カット、ペーストなどによって変更や並べ替えを行います。
エフェクト — 録音したサウンドやソフトウェア・インストゥルメントのサウンドをより好ましいもの、目的に合った雰囲気にするためにリバーブやコーラス、ディストーションなどを適用してサウンドを変化させます。
ミキシング — 録音またはソフトウェアで生成されたサウンドを全て組み合わせ、バランスを調整してファイナル・ミックスを作成します。ファイナル・ミックスの多くは2チャンネル (ステレオ) ですが、サラウンド (5.1など) の場合もあります。この作業にはオートメーションも多用されます。

こうしたタスクは、まずオーディオ・インターフェース・ハードウェアによって行われます。インターフェースにギターやマイクを接続するとデータが変換され、コンピューターにサウンドを入力できます。インターフェースの詳細については別の機会に譲るとして、ここでは「不正な入力からは不正な出力しか得られない」(コンピューターによる情報処理で、与えられたデータが誤っていれば、得られる値は無効なものにしかならないという警句)という古い格言を心に留めておいてください。つまり、コンピューターへクリーンで正確な録音信号を送るには、高品質なコンバーターとマイク・プリアンプを備えたインターフェースを使う必要があります。また、レーテンシー(ノートを弾いてからその音が実際に聴こえるまでの時間的な遅れ)への対処方法が、各インターフェースでどのように違うかを知っておくと良いでしょう。Line 6のレコーディング・インターフェースはSN比が秀逸な上、独自のToneDirectモニタリングによってレーテンシーが問題にならないようデザインされています。

オーディオ・インターフェースには、コンピューターのスロットに差し込むカード型のもの (PCIなど) と、USBまたはFireWireで接続して使うスタンドアローンのユニットがあります。最も一般的で柔軟性のあるセットアップは、POD Studio™インターフェースなどのUSB 2.0で接続するタイプのものです。重要なのは、何を録音するか (ギターとベースのみ、ボーカル・マイク、MIDIデータなど)によって選択してください。Line 6のインターフェースは、ニーズに合わせて選択できるようになっています。また、POD Farm 2ソフトウェアとダイレクトに統合されているので、これ以上は望めないほど便利に、かつ優れたサウンドで、レコーディングやミキシング時に高品質のエフェクトを追加することができます (詳しくは別の回でご説明します)。

DAWソフトウェアの役割

サウンドをコンピューターに入力したり出力したりするにはインターフェース・ハードウェアが使われますが、それ以外は全てソフトウェアでコントロールします。初期の頃は、PerformerなどのMIDIシーケンサーは、Sound Designerなどのオーディオ・エディターとは区別されていました。つまり、Pro ToolsなどのDAWとは別のものでした。しかし、最近ではほとんどのDAWで、先に述べたタスクをある程度こなせるようになりました。だからと言って、どのDAWも似たようなものだというつもりはありません。Pro Tools|HDやNuendoなどトップクラスのDAWでは、普通のシンガー・ソングライターは使うこともない、映像用サウンドに関する機能が多数搭載されています。一方、GarageBandなどのコンシュマー・レベルのプログラムは、便利な機能 (曲中で拍子やテンポに変更する機能など) に欠けているので後悔する場合もあるでしょう。

ホーム・レコーディングに挑戦し始めたばかりのミュージシャンであれば、差し当たり必要なもの (十分な数のオーディオ・トラックとMIDIトラック、高品質なサウンドやプラグイン・エフェクトへのアクセスなど) を最も多く備えている、良心的な価格のパッケージを選ぶというのも手です。例えばLine 6 POD StudioインターフェースにはAbleton® Live®のライト・バージョンとPropellerhead® Reason® Adaptedが付属しています。しかもLine 6 POD Farm™ 2モデリング・ソフトウェアも付属しており、レコーディング時(スタンドアローン・モードで使用) にも、ミックスダウン時(プラグイン・モードで使用) にも、ギターやベース、ボーカル、キーボード、その他の楽器に膨大な種類のエフェクトを使うことができます。

POD Studioインターフェースと組み合わせるのに適したその他のDAWとしては、Avid® Pro Tools® 9やPropellerhead Recordも挙げられます。このPropellerhead Recordは、2009年末のリリース以来、注目を集めている製品です。Recordのグラフィカル・ユーザー・インターフェースは、レコーディング・スタジオでよく目にする専用ミキシング・コンソールやエフェクターを模した、とても魅力的なものであり、ハードウェアの直観的な使い易さとソフトウェアの柔軟性とを兼ね備えています。この記事ではRecordを例に、POD Studio/POD Farmと一緒にDAWを使う方法について詳しく見て行きましょう。

Recordのレイアウト

まずは、インストール手順に従ってRecordとPOD Farm 2をインストールします。インストールが完了したら、不要なプログラムを終了して、必ずコンピューターの処理サイクルとRAMを解放してください (詳しくはコンピューターの最適化をお読みください)。

それではRecordの概要をご紹介しましょう。Recordを起動したら、[環境設定] の [オーディオ] ページを開き、[オーディオカード] にLine 6インターフェースが選択されていることを確認します。Line 6 POD Studio KB37をお使いの場合は、[キーボード&コントローラー] ページでもコントロール・サーフィスとして選択されていることを確認します。

次はRecordのユーザー・インターフェースを把握しましょう。これは3つのエリアに分かれています。「ラック」は、このプログラムで使う各種機器の格納場所であり、それにはトラックに適用できるリバーブやディレイなどのエフェクトと、音を生み出すサンプラーやシンセサイザー (ドラム、ベース、ストリングス、ブラスなど) にあたるソフトウェア・インストゥルメントが含まれています。サウンドはサウンドバンクから生成されます。ReasonにはFactory、Orkesterバンクが同梱されているので、すぐに様々な作品を作ることができます。また、ReFillと呼ばれる追加のソフトウェア・インストゥルメントのコレクションをPropellerheadから購入できます。Line6.comの「コミュニティ」からアクセスできるWebサイトで無償のReFillが提供されています。

「シーケンサー」は、オーディオ・トラックとMIDIトラックで曲を組み立てるために使うタイムライン(時間軸)です。各トラックは、クリップを入れることのできる、平行した1つまたは複数の「レーン」によって構成されます。オーディオ・レーンにはオーディオ・インターフェース経由で録音したオーディオ・クリップを入れます。MIDIレーンには、KB37などの外部MIDIコントローラーで演奏したノートが収められます。また、「シーケンサー」の [エディット] ペーンで、鉛筆ツールを使って画面上の「ピアノ・ロール」 (MIDIシーケンス・エディター) に書き込んだノートも含まれます。「シーケンサー」はトランスポートパネル (最下部) も備えています。このトランスポートパネルには、再生、レコーディング、停止などのコントロールの他に、曲中の位置を示すルーラー (タイムライン) も用意されています。作業エリアでもうひとつ重要なのが「メインミキサー」であり、ここではトラック間の相対的なレベル (音量) のコントロールや、EQやダイナミクス (コンプレッションやリミッティング) の適用が可能です。を適用したりすることができます。以上の3つのエリアは1つのウィンドウで使えますが、「ラック」と「メインミキサー」を独立したウィンドウに分割することも可能です。

まずはビートから

Recordの概要がわかってきたところで、曲作りを始めましょう。大抵のホーム・レコーディングでは生ドラムを録音することは無いため、DAWにおいてはMIDIドラム・トラックのシーケンシングは必須の機能のひとつです。話を分かり易くするために、今回は既成のドラム・ループを使います。

Recordを起動し、[作成] メニューからDr.Rexループ・プレーヤーを選択しましょう。目の覚めるようなブルーのDr.Rexデバイスが「ラック」に表示されます。折りたたまれている (最小化されている) 場合は、左端にある右向きの三角形をクリックすると、隠れていたコントロールが表示されます。

このデバイス用に新しいトラックが作成され、「シーケンサー」と「メインミキサー」の両方へ自動的に追加されます。これを確認するには、[ウィンドウ] メニューから「シーケンサー」ウィンドウを開きます (またはキーボードのF7キーを押します)。ここでは「シーケンサー」が「アレンジ」モードになっている必要があります (「エディット」モードになっている場合はCtrl/Cmd+Eキーを押して切り替えます)。「ルーラー」には左右の「ループロケーター」があります。「ループロケーター」を使うと、現在のループ再生範囲を1~8小節から指定できます。

Dr.Rex用のトラックでトラック左端の名前ラベルをダブルクリックして、「Drums」などの分かり易い名前を入力します。ラックに戻り (F6キー)、Dr.Rexデバイスの左上にある参照ボタン (フォルダー型のアイコン) をクリックして、ブラウザーのダイアログを開きます。使用可能なループ (ACS01_StrghtAhead_130.rx2など) を1つ選択して、[OK] をクリックします。

Dr.Rexのフロント・パネルの [PREVIEW] ボタン (波形ディスプレイの真上) をクリックし、ループを再生します(変なクリック・ノイズが聴こえる場合は、[環境設定] の [オーディオ] ページでバッファー・サイズを増やします)。

Dr.Rexの [TO TRACK] ボタンをクリックして、「シーケンサー」の「Drums」トラックにループを移動します。「シーケンサー」に戻ると、トラックの最初のレーンに、ループ再生範囲を8小節分再生するドラム・パターンが表示されています (より長くループさせるには、この範囲を拡張してから[TO TRACK]ボタンをクリックします)。「ルーラー」の「ソングポジションマーカー」をシーケンスの冒頭 (1小節1拍目) にドラッグします。コンピューターのキーボードにテンキーが付いている場合は、数字の1を押しても同じ操作ができます (Num Lockはオンにしておきます)。「ミキサー」ウィンドウに切り替え (F5キー)、マスター・フェーダーと「Drums」トラック用フェーダーが、それぞれ上がっていることを確認してください。

「トランスポート」の再生ボタンをクリックします (またはコンピューターのキーボードのスペースキーを押します)。「ミキサー」を通してドラム・パートが再生されます。

オーディオのオーバーダビング

演奏の基となるMIDIドラム・クリップを挿入したところで、次はベースやギターなどの楽器を録音してRecordにオーディオ・クリップを作成します。今回はLine 6オーディオ・インターフェースを、POD Farm 2と共に使います (マイクで録音する場合も手順は同じですが、インターフェース上の別の入力を使用します)。

» インターフェースのInstrument入力に楽器を接続します。

» Recordの [作成] メニューから [オーディオトラックを作成] を選択します。

  • 新しいトラックに対応するデバイスが「ラック」に追加され、このトラックが「ミキサー」と「シーケンサー」の両方に追加されます。
  • 「シーケンサー」のオーディオ入力選択ポップアップリスト (新しいトラックの横向きのメーターの左側) では、トラックをモノとステレオのどちらにするかを設定したり、トラックのソースがLine 6インターフェースから送られることを確認したりすることができます。

» POD Farm 2の「ミキサー・ビュー」を使って信号をルーティングします。

  • ミキサー・ビュー・ボタン (最上部「メイン・コントロール・バー」のLine 6ロゴの右隣) をクリックします。
  • デフォルトではシングル・トーン・モードになっているので、入力信号は「トーンA」になります。「トーンA」の [INPUT] メニュー (ロゴの下の左側) を使って、インターフェースに接続しているインプットを選択します。
  • 「トーンA」の [LEVEL] ノブを回して、最も大きな音で演奏または歌ったときに[INPUT]メーターの値が0を上回らないよう調整します。
  • 演奏中に「トーンA」の [OUTPUT] メーターのクリップ・インジケーターが点灯した場合は、「トーンA」の [OUTPUT] フェーダー ([MUTE] ボタンの下にあります) を下げます。

» ここでは話を分かり易くするため、POD Farmのエフェクトは使わずに録音します。そこで、[Send 1 – 2] の [REC] メニュー (右側) を [Dry Input] に設定します。このセンドのフェーダーを使って出力を調整できます。必要な場合は、[+18 dB] ブースト・ボタンも使うことができます。Recordに戻り、オーディオ・トラックのフェーダーが上がっていることを確認してから、トラックのインプット・フェーダーを動かして演奏時の信号レベルを調整します。「ミキサー」のマスター・フェーダーも上がっているので、マスター・メーターに信号が表示されます。

» POD Farmには信号が表示されているのにRecordから音が出ない場合は、Recordの [環境設定] の [オーディオ] ページで [モニタリング] が [自動] に設定されていることを確認してください。

» 「トランスポート」のレコーディング・ボタンをクリックし、録音を始めます。ドラム・パートの演奏が再生されるので、それに合わせて演奏します。大抵のDAWと同様、録音を停止すると、録音されたオーディオの波形がトラック・ディスプレイに表示されます。以上の手順を繰り返して、新しいトラックに楽器を録音して重ねていくことができます。

オーディオ・クリップの編集

オーディオ・クリップを録音したら、ここでDAWの重要な機能を使って、異なるテイクのを一部ずつつなぎ合わせて最良のトラックを作成しましょう。Recordでは、オーディオ・クリップのソース・ファイルをディストラクティブ(破壊的)にカット&ペーストしているのではなく、1つのトラックの様々な「テイク」のうちどれが聞こえるのかを決めることになります。例えばリフで1小節分を間違えて演奏してしまい、同じテイク内の上手く演奏できた部分と差し替えたい場合について考えてみましょう。

» 「シーケンサー」を「エディット」モードにして、今録音したばかりのトラックをクリックします。トラックの濃い色の線で囲まれている部分が再生待ちになっています。左右のハンドルを使うとクリップをトリミングできます (最初と最後の位置をノンディストラクティブに調整できます)。

» トラックをダブルクリックして「コンプ(コンパイル = まとめの略)」モード (トラックの波形ディスプレイの左側にあるコンプ・モード・ボタンが押された状態) にします。この「コンプ」モードでは、トラックで使用可能なテイクが、平行に積み重なった「コンプ列」として表示されます。同時に再生できるのは1つの「コンプ列」のみです。この時点では、表示されているテイクは無音 (灰色で表示されます) です。今録音したばかりのクリップには色が付いており、再生待ちのテイクであることを示しています。

» 「シーケンサー」の左上にある、はさみツールをクリックします。カーソルがはさみの形に変わります。

» Ctrl (Windows) またはCmd (Mac) キーを押しながら、クリップの「コンプ列」の上手く演奏できている部分を最初から最後までクリック&ドラッグします (選択範囲の単位は[スナップ]設定によって決まります)。マウスを放すと、元の「コンプ列」のコピーである新しい「コンプ列」が表示されます。選択した範囲には、開始位置と終了位置にハンドルが付きます。これらのハンドルに囲まれた範囲には色が付き、新しいテイクの残りの部分は灰色になります。

» 新しいテイクの開始ハンドルをドラッグして、置き換えるリフの最初の位置に揃えます。新しいテイクの終了ハンドルをドラッグして、置き換えるリフの終わりの位置に揃えます。再生を始めると、元の録音と同じようなサウンドが聴こえてきますが、開始ハンドルと終了ハンドルの間では、元の録音内容ではなく、新しい「コンプ列」のサウンドが再生されます。

» 新しい「コンプ列」で、上手く演奏できたリフの開始位置をクリックしたまま、この列の開始ハンドルに揃う位置までドラッグします。再生が開始ハンドルの位置に到達すると、上手く演奏できた方のリフが再生されます。再生が終了ハンドルの位置に到達すると、ソースは元の「コンプ列」に戻ります。必要な場合は、開始位置と終了位置にクロスフェード・ハンドルを使うと、切り替わりがスムーズになります。

Recordは多数の機能を搭載する、充実したプログラムです。ここで紹介したのは、Recordのレコーディング、シーケンシング、シンセシス、エディット機能の一部だけですが、ReWireのサポートやPropellerhead Reasonとの統合など、まだまだいろいろな機能があります。詳しく知りたい方は、PropellerheadのWebサイトをご覧ください。このサイトのRecordチュートリアルでは、RecordをReasonと一緒に使う方法をはじめ、数々のトピックが掲載されています。Line 6の「コミュニティ」ページもご覧ください。POD StudioファミリーなどのLine 6製品の登録ユーザーの方には、無償でReason ReFillが提供されます。

フィリップ・デ・ランシー氏は、オーディオおよびマルチメディアの制作/ディストリビューション全般を専門とするフリーランス・ライターです。プ ロ向けの出版物に定期的に掲載されている彼の文章には、オーディオ・エンジニアリングとマルチメディア制作におけるプロとしての実績が活かされています。

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