TIPS/テクニック

ホーム・レコーディング・ガイド Part 2: マイクの選択

ボーカルにしろドラムにしろ、適切なマイクを使うことで最良のレコーディングが行えます。ホーム・レコーディングをテーマとするシリーズの第二回は、一般的なマイクの種類と仕様、使用法を説明します。莫大なレコーディング予算と大規模なスタジオ、熟練したエンジニアといった環境は希少なものになりつつあるので、適切なマイクを選択できるようになりましょう。この連載のPart 1はこちらに掲載されています。

By Philip De Lancie

マイクは人間と同様、それぞれに独自の個性があります。そのため「最高」のマイクを選ぶのでなく、そのときの目的に合ったマイクを選ぶことが成功につながります。実際、他の機器は可能な限り周波数特性をフラットにする (入力と出力の差を無くす) べきだとされていますが、マイクの場合は、そのサウンドへどのように色付けをするかで選択が行われます。

スタジオ・エンジニア達は、様々な楽器を多種多様なマイクで聴き比べることでマイク選びのスキルを身に付け、発達させています。しかし、ホーム・レコーディングでそれを望むのは贅沢というものです。私たちは、各楽器に対してプロのエンジニアがどのようなマイクを選択しているかに注目し、その選択が多くの場合に成功している理由を理解するよう努めて、それを活用して予算内でマイクを選択しましょう。そのためには、まず技術上の基本的な概念を少し理解しておくと良いでしょう。

マイクの種類

ホーム・レコーディングに関係するマイクは、大抵の場合、次の2種類に分けられます:

ダイナミック・マイク – 金属製のコイルが薄いダイアフラム (振動膜) に取り付けられており、電磁場を発生させます。ダイアフラムが音波に反応して振動すると、コイルの動きによって音波が電気エネルギーに変換されます。これと同じ原理で動作するのがリボン・マイクです。リボン・マイクでは、ダイアフラムとコイルの代わりに薄い金属製のリボンが使われています。

コンデンサー・マイク – 同様にダイアフラムが使われていますが、それがコンデンサーの一方の電極として機能します。コンデンサー・マイクには電力が供給され (電池または48 Vの「ファンタム電源」)、音波によって電極間の距離が変化するのに伴い、マイクからの電気エネルギーの出力が変化します。Line 6 POD Studio™ UX2やPOD Studio™ KB37などの高品質オーディオ・インターフェースには、コンデンサー・マイクに電源を供給できるよう、マイク入力にオン/オフ可能なファンタム電源が搭載されています。

ダイナミック・マイクは耐久性に優れており (リボン・マイクは除きます)、ステージやツアーで使用に適していますが、個々のモデルの特性がレコーディング対象の楽器によく合っている場合には最高クラスのスタジオでも使用されます。コンデンサー・マイクは、一般に可聴帯域内のフラットな範囲が広く、細部に至るまで音を拾い上げることができ、特に高域に敏感なので「エアー感」が得られます。そのサウンドは、よく「透明感がある」と表現され、これは楽器の原音に近いサウンドが再現されていることを意味します。

マイクの仕様

「エアー感」や「透明感」といった主観的な言葉を裏打ちするのは、マイクの仕様である客観的な計測値です。全てのメーカーが同じ方法で計測を行っているわけではないので、仕様は鵜呑みにしてはいけません。とは言え、仕様について理解すれば、マイクによってサウンドが異なる理由を見抜けるようになります。少々時間を割いて勉強しても無駄にはなりません。手始めに、Rycoteが提供するMicrophone Dataサイトを参照することをお勧めします。このサイトでは、詳細検索によって指定の条件 (「500ドル未満のコンデンサー」など) を満たすマイクを検索することができます。

一部の仕様は、常識さえあれば理解可能です。例えばMax SPLとは歪み無しに扱える最大音量で、これはできるだけ高い方が良く、また自己ノイズはマイク自体から発生するノイズで、低いほど良いと言えます。

その他の仕様で、何が最良かはマイクの用途によって変わります。こうした重要な仕様のひとつにマイクの指向性 (「ポーラー・パターン」) というものがあります。指向性は、マイクが音を拾う方向とリジェクション(音の減衰)する方向を示します。

- 全指向性(無指向性)マイクは、周りの音すべてを均等に拾います。
- 双指向性マイクは、マイクの正面から来る音と背面から来る音を拾い、側面からの音をリジェクションします。
- 単一指向性マイクは、正面からの音を拾い、背面からの音をリジェクションします。
- スーパーカーディオイドなど単一指向性マイクのバリエーションは、背面からの音のリジェクションをやや弱め、側面からの音のカットを強めています。

ひとつの楽器だけをレコーディングする場合でもリジェクションは重要です。これによって不要な音 (通常は部屋の反響音) が、必要な音 (マイクを向けている対象) の邪魔をすることがなくなります。このため、ほとんどのホーム・レコーディングでは、単一指向性やそのバリエーションのマイクが役立ちます。

周波数特性も重要な仕様です。この仕様によりマイクが、低域のベースの唸りからシンバルの倍音またはそれ以上の高域に至るまでの、可聴帯域のどの部分をよく拾うかが分かります。Microphone Dataサイトでは、数値のほか指向特性も曲線グラフで表されており、非常に分かりやすくなっています。これらの曲線を見れば、コンソールやレコーダーなどの機器の基準で比較すると、フラットなマイクなどほとんど無いということがすぐに分かります。先ほども述べましたが、マイクを選ぶ基準となる要素は、他のレコーディング機器とは異なります。いかにサウンドを変えないかではなく、どのようにサウンドを色付けするかが重要なのです。

プロのマイキング・テクニック

では、こうした予備知識を、実際にどうやってマイクの選択に役立てればいいでしょう? プロのエンジニアは作業に関して抜群のアイディアを持っているはずですから、彼らの作業から学ぶことにしましょう。ドラム・キットには幅広い種類のサウンドが含まれているので、良い例になります。

スタジオでの典型的なセットアップでは、ドラムにはよく単一指向性のダイナミック・マイクが使われます。中高域に特筆すべき「プレゼンス(存在感)」ピークがあり、低域がロールオフされるShure® SM57は、スネアにパンチを利かせるためによく使われます。中高域も強調するSennheiser® MD421は低域特性が充実しており、タムにはこれが定番です (訳注: 国内ではその形からクジラと呼ばれています)。Electro-Voice® RE20は全体的にフラットで (プレゼンスの強調が控え目で、ローエンドが強調されます)、キックには一番人気があります。どの場合にもマイクの長所が楽器の特性を引き立たせています。

シンバルには、単一指向性コンデンサー・マイクがお約束です。AKG® C451などの小型カプセルのコンデンサー・マイクは、ハイハットによく使われます。小型カプセルのコンデンサー・マイクはオーバーヘッド・マイクとしても一般的です。大型カプセルのマイクとしてはAKG C414やNeumann® U87が使われます。これらのマイクや同様のコンデンサー・マイクに共通する特性は、低域と中域がフラットで、シンバルの複雑な倍音が多く含まれる中高域と高域が適度に強調されるという点です。こうした客観的な特性が、典型的なコンデンサー・マイクについてよく言われる「オープン感」や「エアー感」といった主観的な表現を生み出すのです。

もちろん、多くのミュージシャンにとって、演奏やレコーディングのためにドラム・キットを組み上げるのは現実的ではなく、不可能な場合もあります。高品質のドラム・ループ・ライブラリーを使えば、楽曲にナチュラルなサウンドのドラム・トラックを加えることができます。それには市販のライブラリーを利用できますが、Line 6コミュニティでは100種に及ぶドラム・ループを無償でダウンロードできます。

そのプレゼンスがスナッピーなスネアを生み出すSM57は、ギター・アンプのマイキングにも最大の支持を得ており、ミックスの中でロック・ギターが際立ちます。もちろん、素晴らしいエレクトリック・ギター・サウンドを得る手っ取り早い方法は、Line 6 POD Studio™レコーディング・インターフェースへギターをダイレクトに接続し、POD Farm™ 2に用意された膨大な種類のトーンから選択することですが、これは今回のテーマから離れるので、また別の機会に。

一方、アコースティック・ギターの場合は高周波の倍音を細部まで捉える必要があり、この点でシンバルに近いため、コンデンサー・マイクが適しています。実際、スタジオでは、一般にコンデンサー・マイクは全ての弦楽器 (バンジョー、マンドリン、バイオリン、チェロなど) のレコーディングに使われるほか、他の大半の楽器 (リード楽器、金管楽器など) にも使われます。

ほとんどの音楽スタイルにおいて、コンデンサー・マイクはボーカルにも使われます。アコースティック・ギターに比べると人間の声には目立った高周波倍音が少ないのですが、コンデンサー・マイクが捉える細部やサウンドの透明感によって、歌い手がすぐそばに居るような親密さを演出できます。ボーカルにはリボン・マイクもよく使われます。全体的にスムーズで豊かな感じを印象付けたい場合には特に効果的です。

チェック・ワン・ツー・・・ただ今マイクのテスト中…

トラック単位で作業を行なうホーム・レコーディングでは、ドラムとキーボードはMIDIで(サンプリングまたはシンセを)コントロールしており、エレクトリック・ギターはオーディオ・インターフェースへダイレクトに接続されることが多くなっています。このため大抵の人にとって、マイクを購入する上で最も考慮が必要なパートはボーカルです。アコースティック・ギターがこれに続きます (音楽のスタイルによりますが)。ここで良いニュースを。大型カプセルのコンデンサー・マイクは一般にボーカルに使われますが、アコースティック・ギターにも適しています。歌とギターを同時にレコーディングするのでなければ、良質なコンデンサー・マイクが1本あれば事足ります。

悪いニュースは、プロの世界では標準的な、非常に有名なコンデンサー・マイクはどれも1,000ドル以上するということです。しかし、手頃な価格のコンデンサー・マイクも、それこそ何百種類も販売されています。100ドル以上出せるのであれば、少し探せばニーズを満たすものが見つかるでしょう。

自分のマイクを見つける

まずは、無理なく買えるマイクの候補を数種類にまで絞り込みます。サウンドの良さだけでなく、信頼性についても評価の高いものを選びましょう。スタジオや、プロ向けのオーディオ機器の販売店で働く知り合いがいれば理想的です。手頃な価格のコンデンサー・マイクを実際に使ったことがある人による評価は信頼できます。こうした知り合いがいなくても、インターネット上には多数のWebサイトやフォーラムがあり、どのマイクが優れていてどれが駄目かということが論じられています。もちろん、こうした意見は食い違っていることが多いので、真面目に意見を述べていると思える人たちからの評価が最も安定しているマイクを、時間をかけて探し出しましょう。

手頃な価格のマイクの候補を5、6本程度に絞り込めたら、次は主観的な意見を客観的なデータで検証します。まずMicrophone Dataにアクセスし、「Advanced Search」で、ボーカルに適したコンデンサー・マイクを一覧表示します (「Filter by」フィールドの「Price」を「Over $1000」に設定しておきます)。チェックボックスをオンにすると、2つのマイクを比較 (Compare) することができます。参考用に、Neumann U87など、ほとんどの人にボーカルや楽器に適していると認められている典型的な大型ダイアフラム・コンデンサー・マイクのチェックボックスをオンにします。次に、自分の候補の一番手のチェックボックスをオンにして、「Compare」をクリックします。結果のページで、安価なマイクの単一指向性を示す周波数曲線が、参考用マイクのものにどの程度似ているかを見比べます。メモをとり、他の候補にも同じことを繰り返しましょう。

参考用マイクの曲線に最も近いマイクが、音の特徴も最も近いものです。ノイズや最大SPLも仕様が似ていれば、同じ状況下で参考用マイクと同様に機能するマイクを見つけ出せたことになります。ノイズを最小限に抑えるためには、マイクに内蔵または付属のショック・マウントがあるかどうか、またボーカル用にはポップ・フィルターがあるかどうかを確認します。さらに、大音量ソースをレコーディングするときの過大入力による歪みを防ぐため、切り替え式のパッド (10 dB以上) も必要です。

最後に、購入する前に試させてもらいましょう。試すことができなかったとしても、購入後に返品できるよう、パッケージは丁寧に開封しましょう。もちろん、返品せずに済むのが一番です。このように、できる限りの情報を集めた上で選んだマイクは、期待通りにホーム・レコーディングをレベルアップさせてくれるでしょう。

フィリップ・デ・ランシー氏は、オーディオおよびマルチメディアの制作/ディストリビューション全般を専門とするフリーランス・ライターです。プロ向けの出版物に定期的に掲載されている彼の文章には、オーディオ・エンジニアリングとマルチメディア制作におけるプロとしての実績が活かされています。

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