TIPS/テクニック

ホーム・レコーディング・ガイド Part 1: コンピューター

莫大な予算、巨大なスタジオ、熟練したエンジニアといった環境は希少なものになりつつあり、その一方で自宅でレコーディングするミュージシャンがますます増えています。この“ホーム・レコーディング・ガイド”シリーズでは、ソフトウェアからインターフェースまで、ホーム・レコーディングの基礎を分かりやすく説明していきましょう。

By Philip De Lancie

シンガーソングライターにとって、あるいはバンドで演奏する人にとっても、自宅で実現できるレコーディングのクオリティは、30年前の4トラック・レコーダーの時代に比べると格段に進化しています。こうしたテクノロジーは、音楽のアイディアをサウンドに変える力を後押してくれた一方で、膨大な種類のオプションや機器が世にあふれ返る結果となりました。これらのテクノロジー全てを理解しようとすると、特にホーム・レコーディングを始めたばかりの方は圧倒されてしまうかもしれません。

重要なのは、必要となる構成要素に分割し、それが全体像にマッチするかどうかを個々に検討することです。それが、このホーム・レコーディングに関する連載のテーマです。まずは現代のホーム・レコーディングの心臓部であるハードウェア、つまりデジタル・オーディオ・レコーディング・ソフトウェアを動作させ、デジタル・オーディオ・ワークステーション (DAW) を構成するコンピューターを取り上げます。

フレキシブルなオプション

コンピューターベースのDAWに関する第一の疑問は、そもそもなぜこれを使う必要があるのかということでしょう。現在、個人ユーザーを対象とする優れた専用デジタル・レコーディング機器も多数販売されており、それぞれが特定の状況におけるメリットを持っています。しかし、昨今のコンピューターベースシステムの性能向上を考えると、ホーム・レコーディングにこうした専用機を選ぶのは、文書作成にタイプライターを選ぶようなものでしょう。

専用機の能力は製造された時点から変化することはありませんが、コンピューターベースのDAWは最新のテクノロジーとともに進化させることのできるプラットフォームです。またソフトウェアそのものは、動作させているコンピューターや入出力を扱うインターフェースからも独立しているため、それぞれを個別にアップグレードできる柔軟性が得られ、システムを拡張する場合や予算が増えた場合にも、古いセットアップをリサイクル業者に出す必要はありません。また、レコーディング・ソフトウェアは新しい高解像度モニターの画面領域 (1024 x 768以上) を活用できるのもメリットです。これにより、波形編集などの重要なタスクをとても楽に行うことができます。

目的の作業に対応できるでしょうか?

言うまでもなく、DAWの能力にはコンピューターのパワーとスピードが大きく影響します。使用するコンピューターが作業に十分なものであるかを確認する際に、最も重要な要素を以下のガイドラインで紹介します (購入前には、必ずシステム要件で互換性を確認してください)。

オペレーティング・システム – ここでは、Mac® とWindows® のどちらを選ぶのかという話はスキップしますが、既にどちらかのOSに精通しているのであれば、そのプラットフォームで完璧なDAWを構築できない理由はないとだけ強調しておきましょう。コンピューターの初心者である場合は、少し時間を作ってWindowsとMacの両方を試し、自分にとって使いやすいと感じた方を選びましょう。

どちらのOSを選んだにせよ、時代遅れのOSにレコーディング・セットアップを構築するのでは割に合いません。つまり使用するマシンには、WindowsならばWindows 7、Macならば少なくともOS X v10.4 (Tiger) が必要です。お使いの使用しているコンピューターがこれらのオペレーティング・システムの要件を満たさないのであれば、そろそろ新しいコンピューターを購入する時期でしょう。

CPU – 自動車におけるエンジン同様、コンピューターでは中央処理装置 (CPU) が実際の仕事、つまりこの場合にはデジタル・オーディオ・データを構成する数字の高速での処理を行います。するという仕事です。オーディオとMIDIの多数のトラックを同期して動作させるのは、プロセッサーに負荷のかかるタスクです。CPUのスピードが2 GHz以上 (Windows、Macとも)、特にデュアルコア相当であれば、個人ユーザー向けのDAWを使う上で問題はないでしょう。さらにデュアル、コア相当であればコアまたは同等のプロセッサーであれば言うことはありません。一定のCPU速度があれば、高速バスや大容量キャッシュによってパフォーマンスが強化されます。

CPU速度が2GHzを大幅に下回る場合にも、使用できるトラック数は減るものの、有用なソフトウェアの選択肢は残されています。例えばLine 6 POD Studio™インターフェース (POD Studio GX、POD Studio UX1、POD Studio UX2) には、Ableton® Live Lite 7、Reason® Adapted、RiffWorks™ T4といったソフトウェア各種が付属しています。これらのアプリケーションでは、CPU速度の最低要件がWindowsで1.5 GHz、Mac (G4以上) で1.35GHzを超えるものはありません。もちろん最適なパフォーマンスには、より高速なCPU (1.8GHz以上) が推奨されます。

メモリー (RAM) – 多いに越したことはありません。コンピューターのメモリーが多いほど、オーディオ・データの処理が速くなります。それによって一度により多くのトラックを扱うことができ、より多くのプラグイン・エフェクトを使用できます。512 MBで何とか動作するDAWソフトウェアもありますが、安定したパフォーマンスには少なくとも1~1.5 GBは欲しいところです。Ableton Live LiteやReason Adaptedを使うには、WindowsでもMacでも1 GBが推奨されています。しかも、多ければ多いほど良いのです。

ドライブ速度 – オーディオ・データはハード・ドライブにストアされ、オーディオ・データをスムーズに再生するには、データに素早くアクセスできる必要があります。一般的なのは回転数5,400 RPMのドライブで、トラック数が少なければこれで十分でしょうが、DAWに推奨されるドライブ速度は通常7,200 RPMです。Avid® Pro Tools® など一部のDAWメーカーは起動(システム)ドライブとは別にオーディオ・データ専用のドライブを用意することで、オーディオ以外の読み書きの動作がオーディオ・パフォーマンスへ影響が与えないように指定をしています。このオーディオ・ドライブのデータは、ドライブに問題が起こった場合に備えて、オーディオ・ドライブのデータをシステム・ドライブにバックアップしておくといいでしょう。

ポート – ポートを搭載していないコンピューターは、ジャックの無いアンプのようなものです。マイクやライン・レベルを扱えるアナログ・オーディオ・インプットが搭載されたコンピューターもあり、こうした端子はいざという時には便利かもしれませんが、高品質なオーディオ・レコーディングには対応していません。Line 6のPOD Studioファミリーなどのデジタル・オーディオ・インターフェースからデータを高速転送するには、コンピューターにFireWireまたはUSB (2.0が望ましい) のデータ・ポートが必要です。次回はオーディオ・インターフェースを取り上げましょう。

フィリップ・デ・ランシー氏は、オーディオおよびマルチメディアの制作/ディストリビューション全般を専門とするフリーランス・ライターです。プロ向けの出版物に定期的に掲載されている彼の文章には、オーディオ・エンジニアリングとマルチメディア制作におけるプロとしての実績が活かされています。

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