アナログ派ギタリストのためのHelix実験室

第9回 Helixでサウンド比較実験! Centaur編

2020.05.26

Idonuma main

無類のアナログ/ビンテージ機材好きライターによるHelix導入事例と、日常的なトライ&エラー(実験)を追う連載の9回目。今回のテーマは、「Centaurにどこまで迫れるのか?実験」です。

キング・オブ・オーバードライブに迫る!

今回は、歪みペダル好きなら知らない人はいない、Klon® Centaur Professional Overdrive(以下、Centaur)のサウンドをHelixで再現したいと思います。

Centaurと言えば、巷では「キング・オブ・オーバードライブ」と呼ばれる名機です。ギターの美味しい倍音が前に出てきて、レンジがほど良くまとまる独特のサウンド、多くのトップ・プロによる使用実績、そして取引価格(状態によって50万円オーバーのものも)、とまさしくキングですね。

おいそれとは買えないペダルなだけに、Helixでバッチリ再現できたら痛快だぞ、うひひ……という邪な心があることは否定できませんが、まぁ本当にそっくりにできたらHelixを愛する皆さんのお役にも立ちそうですので、チャレンジしてみることにします。

が、早くも問題発生! Centaurの実機がありません(笑)。私が所有していた個体は、お金がない時に売ってしまいました……。そこで、友人のR氏に連絡を取り、彼の愛機を借りることに。それがこの、シルバー、絵なしの個体です!

シルバー、絵なしにも、塗装の照りあり・なしがあるようですが、こちらはご覧のように照りなしです。Centaurは本当に謎が多いです。

ラインを分ければ実験もラクラク!

さあ、準備も整いましたので(実機を借りただけですが)、実験を始めましょう!

まずHelixの信号を並列に分け、一方にCentaur実機(センド/リターン1に接続)、もう一方にHelixのディストーション群の中からCentaurをモデルにした「Minotaur」を配置しました。これは、直列で並べることでCentaurの強烈なバッファが、後続のMinotaurに影響を与えること(たとえCentaurをオフにしても)を避けるためです。

信号の流れの全体像はこんな感じです。

ここで大事なのが、信号の分岐点となるスプリット・ブロックです。Helix実験室の第7回でもご紹介したように、Helixでは信号の分け方を3種類(*)の中から選べるんですね(Split Y、Split A/B、Split Crossover)。今回は、Split A/Bを選びます。
*編注:Helix/HXファームウェア2.90以降、スプリット・ブロックに「Dynamic」が追加されています。

そして、Split A/Bのルートをエクスプレッション・ペダルに割り当てて、ペダルを踏み込んでいない場合は信号の100%がルートAを通り(上段のライン、ここでは実機・Centaur)、踏み込むと100%がルートB(下段のライン、HXモデリング・Minotaur)を通るようにしました。大事なことなのでもう一度……。

■エクスプレッション・ペダルを踏み込まない=実機・Centaur
■エクスプレッション・ペダルを踏み込む=HXモデリング・Minotaur

さらに素の音との比較もしたいので、Centaur、Minotaurをそれぞれフット・スイッチにアサインし、準備完了です!

数値が【A 100】となっています。これがペダルを踏み込んでいない状態で、信号は実機のCentaurを通ります。

こちらは数値が【B 100】です。ペダルを踏み込んだ状態で、信号はHXモデリングのMinotaurを通ります。

「オーバードライブの王様」とまったく同じ音が!!

動画では素の音(ギターからアンプ・モデル「US Deluxe Vib」へ)、Centaurオン、Minotaurとの切り替えという順番で進みます。前半(0:00〜0:52)がハイゲイン、後半(0:53〜2:06)がローゲインです。

いかがでしたか? 例によって簡易な録音なので聴き取りづらいところもあるかもしれませんが、もう、これは同じ音と言っていいレベルですよね?

特に、Centaurのゲイン・ツマミをフルにした時のハイゲイン・サウンド(動画前半〜0:52)は、Minotaurとの違いがまったくわかりません。3弦12フレットを弾いた時のキュッと倍音が飛び出てくる感じまで、完全に同じです。また、Centaurはローゲインのブースターとしてゲイン・ツマミを9時方向に設定して使われることが多い機種なのですが、このローゲイン・サウンド(動画後半0:53〜)についてもほぼ同じ音です。

実はCentaurは個体差が多いモデルでして、私自身これまで10台以上を弾いた経験がありますが、同じ音のする個体はありませんでした。HXモデリングのMinotaurが開発の際にどういったモデルを検体としたのかはわかりませんが、ここまで似ているのは実機同士でもほとんどありません。

今回の実験結果には、ちょっとホッとしました。ただし、これで「さぁ皆さん、もうCentaurを買う必要はありませんよ。そのお金でHelixを買いましょう!」というつもりではありません(いや、そうしていただいてももちろん良いのですが笑)。実験では特にローゲインのセッティングに苦労したのですが、Minotaurの数値を0.1単位で何度も調整し、ようやくこの結果に至りました。Minotaurが良く再現されているのは間違いありませんが、「適当にセットしても同じになる」というわけではないようです。

何が言いたいのか、つまり実験の結論としては、「Helixはアナログ機材をよく知っている人ほど楽しめる」ということです。アナログ好きの人はなぜかデジタルを敬遠しますが(私も以前そうでした)、Helixにはアナログ好きの心をワクワクさせる力があります。そのことが、今回の実験で少しでも伝わるといいなと思っています。それでは、次回もお楽しみに!

※記事中の写真、動画は、記事の理解を促すために筆者が個人的にスマートフォンで撮影したものです。必ずしも十分なクオリティではないかもしれませんが、何卒ご容赦ください。


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Ragos、写真中央が筆者

井戸沼 尚也(いどぬま なおや) プロフィール
Ragos、Zubola Funk Laboratoryのギタリスト。元デジマート地下実験室室長。フリーランスのライターとして、活躍したり、しなかったりしている。

◎Twitter: https://twitter.com/arigatoguitar

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