アナログ派ギタリストのためのHelix実験室

第8回 Helixアナログ・ディレイ実験

2020.04.28

Idonuma main

無類のアナログ/ビンテージ機材好きライターによるHelix導入事例と、日常的なトライ&エラー(実験)を追う連載の8回目。今回のテーマは、「アナログ・ディレイ実験」です。

伝説のアナログ・ディレイ・サウンドを再現

今回は、Helixを使ってアナログ・ディレイのサウンドを掘り下げていきたいと思います。といっても誤解のないようにお伝えしたいのですが、Helixはデジタル・プロセッサーであり、アナログ・ディレイ実機のように本物のBBD(Bucket Brigade Device)を使って遅延を作り出しているわけではありません。Line 6が独自に開発した“Bucketier(バケッティア)” チップと、“Panda(パンダ)”という愛称を持つバーチャル回路で、アナログ・ディレイのサウンドと挙動を再現しています。

今回、Helixと実機を比較しながら音作りをして、Helixの完成度の高さに改めて驚かされました。アナログ・ディレイの実機、中でも名機と呼ばれるモデルと比べてみましたが、しっかりと伝説のアナログ・サウンドを受け継いでいるのです。そして現代のバンド・サウンドに馴染みやすいという点で、実機以上に使えるアナログ(ライクな)サウンドという印象を強くしました。

名機の音にどこまで迫っているのか?

それでは具体的に見ていきましょう。まずは、数あるアナログ・ディレイの中から、コンパクトの名機として真っ先に名前が挙がるBOSS® DM-2 Delay(以下:DM-2)、そして個人的に最も好きなアナログ・ディレイであるElectro-Harmonix® Deluxe Memory Man(以下:Deluxe Memory Man)の2機種の実機を改めて弾いてみました。

Deluxe Memory Manの太く、滲むようなディレイ音と心地よい揺れは最高としか言いようがありません。年代によっても結構音が違うのですが、今回サンプルにしたのは音の良さ、扱いやすさのバランスに優れた90年代のモデルです。一方のDM-2は、温かみと素朴さを感じさせるディレイ音に加え、心を鷲掴みにして揺さぶるような発振音が素晴らしく、やはり名機と呼ばれることに異論はありません。

これらに対して、HelixからはDeluxe Memory Manをベースにした「Elephant Man」と「Analog w/Mod」、そしてステレオ・バージョンの「Elephant Man」、それからDM-2をベースにした「Bucket Brigate」、「Analog Echo」の5モデルを紹介します。もっと言えば、DM-2のMod機をベースにした「Adoriatic Delay」というマニアックなモデルもあるのですが、ここではオリジナルに準じたモデルだけをピックアップしました。これらの音を楽しんでもらいましょう。

緑色のディレイのブロックばかりが並んだシグナル・チェーン。本実験の全体像です。

それにしても、なぜこんなにたくさん同じようなモデルがあるのか? それには理由があります。Line 6のディレイと言えば、名機中の名機、DL-4 Delay Modeler(以下:DL-4)があまりにも有名です。ジョン・フルシアンテやオマー・ロドリゲスなど超一流のギタリストたちに愛され続けているモデルで、DL-4でモデリングされたDeluxe Memory Man、DM-2の音は、今なお人気が衰えません。Helixはそれらのサウンドをレガシー・モデルとして継承しつつ(Analog w/Mod、Analog Echo)、Helix独自のHXモデリングによるDeluxe Memory Man、DM-2のモデル(Elephant Man、ステレオのElephant Man、Bucket Brigate)も搭載しているため、数が多いのです。

「同じサウンドばかりあっても、意味がないよ」──いえいえ、これらはそれぞれに個性があり、音色も異なります。オリジナルの実機に年代による違いや同年代でも個体差があるように、Helixは個性が異なるモデルを複数用意し、さらにオリジナルにもないような細かいパラメータを用意して、その気になれば個体差さえも再現できたり、オリジナル以上に音作りがしやすいように設計されているのです。

さあ、前置きはここまでにして動画をご覧ください。

「Elephant Man」、「Analog w/Mod」、ステレオ版の「Elephant Man」のサウンド、そして「Analog Echo」、「Bucket Brigate」の発振音をお楽しみください

シンプルなアルペジオが揺れ、滲み、より音楽的に!

① Elephant Man
動画の冒頭ではエフェクト・モデルをスルーした素の音でシンプルなアルペジオを弾いたのち、Deluxe Memory Manベースの「Elephant Man」をアクティブにしました。どうですか、この温かさ、滲み具合、揺れ具合……絶妙ですよね? Deluxe Memory Manを知っている人ほど、驚くと思います。私はこの「Elephant Man」が最高に好きです!! シンプルなプレイを音楽的に仕上げてくれます。

Elephant Manのコントロールの2ページ目にはNoiseというパラメータがあり、実機さながらの「シーッ」というノイズ音の調整も可能。

② Analog w/Mod
同じくDeluxe Memory Manベースで、DL-4直系のレガシーから、「Analog w/Mod」のサウンドをお聴きください。①の「Elephant Man」に比べると、ディレイの返りがクリアで、ややあっさりした音だということがわかると思います。ちなみに、TimeやFeedback、Mixなどのパラメータは同じ値にしてあります。結構、違いますよね? 皆さんはどちらが好きですか?

「Analog w/Mod」とは「Analog Delay With Modulation」の意。すなわち揺れをともなうDeluxe Memory Manの音を表している。いつもながら、好きな位置のフットスイッチにアサインできるのが最高!

③ Elephant Man(ステレオ)
さらに、同じくDeluxe Memory Manベースの「Elephant Man」のステレオをアクティブにしました。実はこれ、あまり知られていないと思いますが、Elephant Manのモノラルとステレオはサウンドも異なりますし、使えるパラメータも違うんです! ステレオには、音の広がりをコントロールするScaleとSpreadというパラメータが追加され、音像まで調整できます。オリジナルの実機はドライ音とウェット音を分けて出すだけですから、この点はオリジナル以上と言って良いと思います。

動画はスマホで撮影・録音ものなので、広がりの違いはわかりにくいと思いますが、音質自体が違うことはすぐにわかるでしょう。ScaleとSpread以外のセッティングは同じですが、モノラルに比べてステレオの方が残響がはっきりと明瞭に聴こえます。コーラス・モードの揺れ具合もキレイですね。

「Elephant Man」の文字の横に、円が2つ重なっているアイコンが表示される。これが、ステレオの印。

ステレオのElephant Manには、モノラルにはないScaleとSpreadというパラメータが追加される。

④ Elephant Man
比較のため、もう一度モノラルの「Elephant Man」に戻っていますが、やはりモノラルのほうが太く、滲んでいます。明瞭な美しさを求めるならステレオ、Deluxe Memory Manらしさを求めるならモノラルという感じでしょうか。私は断然、モノラルが好みです。

⑤ Analog Echo → Bucket Brigate
続いて、DM-2ベースの2モデルですが、このままでは動画も記事も長くなり過ぎるため、こちらは発振音だけです。2種類の発振音を、楽しみながら聴き比べてみてください(笑)。最初が「Analog Echo」、次に「Bucket Brigate」です。それにしても、発振音、発振の仕方までDM-2に似ていますね。どちらかと言えば、「Analog Echo」の発振の方が扱いやすく、「Bucket Brigate」は暴れん坊な感じです。ですから後者はFeedbackのパラメータをフルにはしていません。インパクト勝負の時は「Bucket Brigate」をオススメします。

ここでのポイントは、Timeのパラメータをフットペダルにアサインし、足で発振をコントロールしていることです。もちろん、同じことは「Elephant Man」や「Analog w/Mod」でも可能です。ぜひご自身の環境でもお試しください!

Timeパラメータの300msの文字が白くなっているのがおわかりですか? これは、フットペダルにアサインされていて、Timeの数値を足でコントロールできることを示しています。

いかがでしたか? Helixで作るアナログ・ディレイ・サウンド。想像以上だったという人も多いのではないでしょうか。私自身も、改めて惚れ直しました。家にいる時間が長くなった時は、使いきれていないHelixのモデルや機能を深堀りするチャンスです。間口は広いのに奥が深い、Helixの沼にどっぷりと浸かってみてください。それでは、次回もお楽しみに!

※記事中の写真、動画は、記事の理解を促すために筆者が個人的にスマートフォンで撮影したものです。必ずしも十分なクオリティではないかもしれませんが、何卒ご容赦ください。


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Ragos、写真中央が筆者

井戸沼 尚也(いどぬま なおや) プロフィール
Ragos、Zubola Funk Laboratoryのギタリスト。元デジマート地下実験室室長。フリーランスのライターとして、活躍したり、しなかったりしている。

◎Twitter: https://twitter.com/arigatoguitar

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