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Helix

パンダにバケツを

2016.01.13

学生であれば、新たな専門分野を学ぶ際には、いくつか従うべき基本的なルールがあることに気が付きます。それらは、各分野で長年反復されてきたベストプラクティス(最善の手法)が、単に磨かれたものであることがほとんどです。シェフは、ステーキを美味しく食べるためには、切る前に少し時間を置き、肉は斜めに切るべきだと学びます。電気技師は高圧の電線を扱う時、手の平ではなく甲のほうで軽く触れると安全であることを学びます。科学者は、実験・観測の際にどのように科学的手法を用いるかを学びます。

技術者の間では、「ノイズは非効率の副産物」という定説があります。これは、すぐ隣にいる高級セダンのアイドリングの音はとても静かなのに対し、マッスルカー(大排気量でパワフルなスポーツカー)は接近してくるかなり前から音で分かる、という例が分かりやすいでしょう。マッスルカーはハイパワーなのでスピードも出ます。しかしこのパワフルさは効率性との引き換えであり、爆音や燃費の悪さは非効率の副産物と言えます。

しかし科学が全てではありません!こういった決まりごとは単なる設計上の理論であり、私たちギタリストには通用しません!ギタリストはあえて音を歪ませています。時には信じられないほど激しいディストーションをかけることもあります。ギターがマッスルカーのようにうなりをあげて欲しいとよく思います。求めているサウンドを得るのに、必要悪としてのノイズをどんどん追加するのです。ギター・トーンは、科学的に正しい理論だけでは語れません。

その代表的な例ですが、人気の高いディレイ・ペダルには“バケツリレー”回路(BBD)が使われている事が多くあります。BBD回路は設計上様々な欠点を持つ独特なデバイスでありながら、どの時代にも最も愛されるギター・サウンドに不可欠な要素、粘りのある有機的な特性を持ちます。

“バケツリレー”回路と呼ばれているのは、回路内のステージからステージへオーディオを受け渡していく様が、消火栓がまだない時代、人から人へ水をバケツリレーして消火していたのと似ているところに由来します。興味深いことに、回路自体はアナログですが、サンプルレートを変えることにより、ディレイ・タイムをデジタルでコントロールしています。

この仕組みが非常に重要で、サンプルレートを下げると、サンプル同士の間隔がその分開き、回路を通るオーディオの解像度も効果的に下げることができるのです。解像度が低くなると、オーディオ・サウンドもしっかり処理されて音も少し悪くなります。

BBDはノイズも乗りやすく、高域をロールオフさせる事をお伝えしておかなければいけませんね。

つまりこのノイズの乗りやすいチップは、音もこもらせ、使えるディレイタイムは比較的短く、最も長い設定にした場合にはファンキーなサウンドが得られます。良くできた仕組みだとはとても言えませんね!しかしBBD回路のディレイは30年以上に渡りペダル・ボード上の定番であり続けてきました。何か理由があるはずです。

妙な話ですが、この回路の欠点がギタリストにとっては価値があります。ディレイ音が元の音よりわずかにこもった感じのする、トレブルのロールオフが重宝されているのです。すなわち、リピート音は元のプレイに影響を与えることなく、ディレイ・サウンドが耳障りになることは殆どありません。コンパンダー(コンプレッサー/エキスパンダー)回路は、減衰時のリピート音のレベルを上げることでノイズを抑えるために搭載され、実際にその機能も果たしていますが、圧縮が加わることでリピート音にナチュラルな暖かみが偶発的に生まれたのです。

このような特異な特性があることから、バケツリレー方式をソフトウェアに組み込むことはこれまでほぼ不可能でした。従来のギター製品ではノブを調整すればある程度リアルな挙動の再現も可能でしたが、私たちはHelixにそれ以上を求めました。クラシックなペダルを忠実に再現すること。単にノブの調整による作用がリアルに再現できるだけでなく、オーディオそのものが持つ味わいも再現したかったのです。

最後になりましたが、私たちはディレイ・ペダル用に2種類のソフトウェア・コンポーネントを独自開発しました。バケツリレー回路“Bucketier”(バケッティア)とコンパンダー回路“Panda”(パンダ)です。

どちらのコンポーネントもバーチャルなディレイ回路内で、アナログを忠実に再現し、スタンドアローンで動作します。Pandaはオリジナルの回路が持つダイナミックな挙動を創り出し、Bucketierはその内部のサンプルレートを変化させることで、ディレイ・タイムの変更を行います。そしてディレイ・タイムを長く設定した場合には、本物のユニットと同様の解像度が悪くなる現象を再現します。さらには、Bucketierがスタンドアローンのコンポーネントであることから、本物のバケツリレー回路に見られる特性は残しつつ、実世界では費用が高すぎて製造できないようなペダルをモデリングにより再現することも可能になります。例えば、HelixのAdriaticディレイは、BBD回路追加機能があり、本物のモデリングされたペダルの限界以上に長いディレイ・タイムを設定できます。

ヴィンテージのディレイがお好きでしたら、Helixにも沢山の暖かみのあるヴィンテージ・ディレイが用意されていますので、是非正規販売店にてチェックしてみてください。Helix詳細は、http://line6.jp/helix/にてご確認ください。

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