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FRFRとは、そしてそのススメ

今、世界はなんでもスピード化の時代ですが、人々は更にスピードアップする方法を常に考えているように思えます。タッチするだけで支払いができる電子マネーのシステムからドライ・シャンプーまで、世界全体が躍起になってスピード化を求め、さらにそれに拍車がかかってきている気さえします。実際私たちは最近時間に追われるあまり、完全な言葉や文章を使わなくなってしまい、略語で済ませてしまうことも少なくありません。

従って頭字語の世界もそれに比例して拡大しています。レコーディングができる仕様のコンピューターのことを“DAW”と呼ぶだけでなく、所謂KY語のようなローマ字略語は日々生み出され、全てを把握することは困難になってきています。しかし、ギターのセットアップに関する新しい頭字語については、他のギタリストとコミュニケーションをとるために、常に学んでおく必要性があります。

その良い例が“FRFR”です。ギター関連のフォーラムなどでは目にすることがあるかもしれませんが、大抵の人はこの“FRFR”が“フルレンジ・フラットレスポンス(Full Range, Flat Response)”の略である事は知らないでしょう。この言葉が何の略かわかったところで、では、この言葉が本当に意味するものは何でしょうか?“FRFR”システムではどんな事ができ、どのような人向けの仕組みかをよく理解するためには、まず一般的なギター用スピーカーの仕組みを知る必要があります。

金属製のギター弦が、何メートルものケーブル、マグネット、ガラスでハウジングされた真空管、そしてゲイン段と相互に作用するわけですから、エレキギターとそのアンプは非常に耳障りな存在になる可能性があります。ですから一般的なギター用スピーカーはギターが音として出力される前に、アンプの出力の段で高域を大幅にカットする仕組みになっています。5K以上の周波数帯のほとんどがロールオフされる一般的なギター用スピーカーの場合、ギターアンプを通してエレキギターを演奏するほうが、別のものから出力するよりはるかにサウンドがスムーズになるのです。

他の選択肢はどうでしょう?私は16歳の時、チューブ・ギター・アンプをPA用のパッシブ・ラウドスピーカーに繋ぐというとても常識外れな方法を試したことがあるのですが、コードをひとつ弾いたところで歯からエナメル質が剥がれ落ちていないかを確認するために洗面所に飛び込みました。それはもう酷いものでした!ギター用スピーカーが普通は抑えている耳障りな周波数帯がそのまま爆音で出てきたわけですから、たまったものではありませんでした。

なぜこのような事が起きたのか。それは家庭用のステレオやPAスピーカーがフルレンジのオーディオを正確に再生するように設計されているからです。家庭用のステレオの場合は、聴きやすくマスター処理されたCDやMP3を聴くことがほとんですが、PAスピーカーの場合はそれよりはるかに広いレンジのオーディオを再生可能でなければなりません。例えばホーン・セクションもいるラウドなファンク・バンドの場合、PAはドラム、ベース、管楽器、ギター、キーボード、ボーカル全てのバランスを取らなければいけません。

これら全てのサウンドを正確に再現するために、フルレンジのスピーカーには高域周波数用ドライバ(一般的にツィーターと呼ばれるもの)が搭載されており、そのツィーターがギターアンプによりカットされてしまう高域を正確に再現する役割を果たしています。

ここに矛盾が生じます。エレキギター用アンプは適切なサウンドを出すためにスピーカーによってレンジを狭める必要がありますが、逆にアコースティックギターをアンプに繋げる場合は、ナチュラルなサウンドを得るためにPAスピーカーのツィーターが不可欠です。これがエレキギター用アンプでアコースティックギターを使用しない、またその逆も同様である一番の理由です。それぞれ用途に合ったものを選択しないと、楽器、または機材をダメにしてしまう可能性もあります。

エレキギター用、そしてPA用のスピーカーがどのように違うかがわかれば、“FRFR”という言葉が何を意味するかも解り、おのずとそれがどのように機能するかが理解しやすくなったと思います。“FRFR”のシステムは広い周波数を平坦に再生するように設計されており、そこを通った信号はどんなボリュームであっても同じサウンドに聞こえるのです。音量の違い、ライブ規模の違いに関係なく、“FRFR”システムはPAの挙動を再現し同じサウンドを実現でき、ギターアンプが処理できるよりはるかに高い周波数帯、そして低い周波数帯を再現することが可能です。

“FRFR”システムをお持ちで、それでエレキギターを使ってみたいとお考えですか?全く問題はありません!単にエレキギターにスピーカー・モデリングが内蔵されたプロセッサーを通すようにすればよいのです(私の場合はHelixを使いますが、今どきはオプションがいくつも存在します)。スピーカー・キャビネット・モデルが、ロールオフされている本物のギター用スピーカーのレスポンスを忠実に再現するので、耳障りなサウンドにすることなく“FRFR”システムに送ることが可能になります。ステージ上で本物のスピーカー・キャビネットにマイキングしPAに送るのと理屈は同じで、ブリード(かぶり)やステージ上のボリュームが関係しないだけの違いです。

この仕組みには様々なメリットがあります。例えば、ライブの規模を問わず同じ機材を使用でき、どんなボリュームでも同じトーンを得られます。そしてアコースティック、エレキどちらにも同じスピーカー・システムを使用できます。ステージ上のボリュームをコントロールしてボーカル・マイクからのブリードを減らすこともできますし、ボリュームとトーンの設定をパッチとして全て保存できるため、サウンドチェックが簡単になりオーディエンスも常に同じサウンドを聴くことが可能になります。さらに、求めるサウンドを実現するために必要な、高価で重い機材を毎回持ち運ぶ必要もなくなります。

このような理由から、ツアーを行うメジャー・アーティスト達の間でも、近年“FRFR”を採用するケースが増えています。ライブ演奏で起こりえる様々なトラブルを解消することができそうですね。

どの機材を使うにしても、最近では“FRFR”の仕組みを採用している製品が増えてきています。Line 6は“FRFR”の分野に先駆けて着手した企業の一つですが(我々は省略して単に“フルレンジ”と呼んでいます)、Stagesource L2 & L3 スピーカーに続き、今年は初となるオールインワン“FRFR”ソリューション Firehawk 1500ステージ・アンプをリリースしました。1500W、フルレンジ6スピーカー再生システム、グラフィカルなトーン編集機能、充実した入出力、多数のFirehawkギター・プロセッサーを搭載したFirehawk 1500は、あなたの探し求めていたステージ・アンプかもしれません。

是非FRFRを楽しんでみてください!


Firehawk 1500

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