ジュリアン・ベイカー — HX Effectsを巧みに操るインディーロック界のきらめくリバーブ・クイーン

 

ジェフ・バックリィやコクトー・ツインズの時代には、きらめきあるドラマチックなリバーブとディレイはインディーロック界のギター・サウンドにはありませんでしたが、才能溢れる26歳のジュリアン・ベイカーの時代は違います。バックリィ同様、彼女は完全にクリーンなシルバーフェイス・スタイルのTelecasterトーンを好みますが、ほんの少しのオーバードライブに、クールなリバース/バンニング・ディレイが乗った味わい深い広大なリバーブがかかる、繊細なトライアドとループを聴かせます。


デビューアルバム『Sprained Ankles』、2017年にリリースされた『Turn Out the Lights』、そして昨年リリースされた『Little Oblivions』を含むベイカーの3枚のアルバムには、魂の葛藤、そして静けさと情熱を兼ね備えた揺れ動く感情を探求する、繊細で心地よい楽曲も数多く収録されています。バックリィと同じく、天まで届きそうな生き生きとした彼女の歌声は、心に響く息遣いや声色がどことなくジャズゴシック調なビョーク、ニコ、スティーナ・ノルデンスタム、ホープ・サンドヴァルや、その他の洗練されたシャンソン歌手らを彷彿させます。


そのため、恐らく彼女がかなりのギアおたくであるアーティストだと考える人はほとんどいないでしょう。しかし実際は、初期に使っていたLine 6 DL4ディレイ・モデラーから、現在彼女がハマっている膨大なモデリングを備えたHX Effectsに至るまで、実は彼女は筋金入りのトーンマニアであり、お気に入りのChaseBlissやEmpressといったブティック・アウトボード・ペダルを、HX Effectsに用意されている6つのブロックと組み合わせて使用し、直感的なインターフェースを備えたHX Editもフル活用しています。


Transistor TapeディレイからPlateauxリバーブまで、彼女はシグナル・プロセッシングにおける空気感のコツを掴み、その効果を過度に使い過ぎずない感性も持ち合わせています。さらには彼女のバンドの他のメンバーも皆、彼女のテクニックを用いるようになりました。ギタリストのマライア・シュナイダーは、ギター・サウンドにはHelix Rackを使用し、個性的なボーカル・エフェクトにはHX Stompを活用しています。それだけに留まらずベーシストのカルバン・ローバーもHX Effectsを使用しています。彼の場合は、HX EffectsのMIDI機能を、バッキングトラックをトリガーしたり、ステージ上の照明機器にプログラム・メッセージを送信するコントローラーとして主に使用しています。このバンドでは、Helix/HX製品が大活躍しているのです。


「私たちのライブでは、Line 6のギアが不可欠です。個人的に重要視しているのは、サウンド・クオリティと直感的な操作性です。Line 6の回し者と思われるかもしれませんね(笑)。でも本当にHX Effectsを気に入っているんです」とベイカーは言います。


スペインのバルセロナで開催されたPrimavera Sound Festivalでパフォーマンスするベイカー(2016年6月2日)

あなたは歌の中でまるで懺悔のごとく心をさらけ出していますが、それをありがちな自己憐憫だけで終わらせない、芸術性の高い楽曲に仕上げることに長けていますね。


あなたにそんな風に言っていただけるとは光栄です。私は大学で文学理論の授業を受けていたのですが、ワーズワース、そして彼の「詩とは、強い感情が自然とあふれ出たものだ。」という名言を引き合いに出すとき、ほとんどの人が今言ったその名言の一節しか使わないと教授が説明してくれたことを思い出しました。完全にはこうです。「詩とは、強い感情が自然とあふれ出たものだ。それは、静けさの中で情念を思い返すことから生まれる。」です。その人々が口にしない部分こそが、我々ソングライターが忘れがちな部分だと思っています。


ある人が、「私たちは心に負った傷ではなく、そこに残った傷跡を基に歌を書いている」という考え方を教えてくれたことがあります。


その通りです。弱く脆い感情を深く掘り下げる。それが最初の1歩ですよね?それがとても需要なことです。それは内にあるありのままの自分を引き出して、目に見えるところにさらけ出すためであり、言うなればボトルの中に稲妻を捕らえるようなものです。それをすべてふるいにかけ、その中から本当に必要なものを取り出して、そこに潜んでいるものは何か、またそれが何を意味しているのかを探り当て、それらを分かりやすい方法でつなぎ合わせます。ソングライティングは感情に直結するものであることは確かですが、同時にとても技能的です。


Sprained Ankle』をリリースし、ソングライターとしてのキャリアをスタートさせたばかりの頃は、完全に無防備に近い状態だったと思います。ですから当時書いた楽曲は、その瞬間自分の心の中、そして自分の人生で起きたことに対し、意識的に感じたことを単純に並べ描写しただけのものでした。でも今では運良くミュージシャンとして生計を立て、自分の作品だけでなく他のプロジェクトにも楽曲提供していますので、より技能面にも注意を払うようになりました。頭の中でスクラブルのように思いつく限りの単語を完成させ、その中からできるだけ簡潔で分かりやい、そしてできれば美しく、さらには実直な言葉を選んでいくのはとても楽しい作業です。




エフェクト全般、そして特にLine 6のギアの使用経歴について教えてください。


究極に実用的で基本中の基本であるDL4ディレイ・モデラーは、私が2台目に購入したペダルでした。当時16歳だった私はバンドでギグを始め、プロを目指しているバンドを探し始めたばかりだったので、特にこだわりがあってDL4を使っていたわけではありませんでした。当時は何の根拠もなく見様見真似で音をいじっていた自分に自信が持てず、それを誤魔化すためにリバーブとディレイをむやみやたらと使っていたんだと思います。最初のバンドでは、タップテンポ・ディレイやシンコペーションにしたリバース・ディレイで面白いことを試したりしていましたが、それはロック・バンドとして何か特別なことをしているというほどのものではなく、ループを多用するようになったのは自分がソロでのライブをするようになってからです。


その頃私は、主に奇抜なサウンドを作りたいときにディレイを使用していました。元のトーンやパートを目立たせるためではなく、あくまでクレイジーなフィードバックや、楽しくて風変わりなものを作成することだけが目的だったのです。しかし大学に入ってから寮の部屋で所有していたのは、Line 6 DL4とStrymon blueSkyだけでした(笑)。 それがきっかけで、DL4にあの素晴らしいループ機能が備わっていることを発見し、色々試してみるようになりました。ファーストアルバム『Sprained Ankle』に収録されている曲の多くは、寮の部屋や実家のリビングで演奏したものをループし、その上により厚みのあるテクスチャーを重ねていくことで生まれました。まずはシンプルなものから作業を始め、まずは高音と低音のパートを追加し、次にベースを加え、最後にアレンジを進めていきます。


あなたのライブ映像をいくつか拝見させていただきましたが、ループを多用されていて、それが生み出す効果も素晴らしいですね。


ありがとうございます。もしもAbleton Liveのようなソフトを、使い方を熟知した上でソングライティングに使っていたとしたらどんなものが仕上がっていたのか、それは神のみぞ知る、ですね。私はあのソフトを全くでたらめな使い方をしていました。その後DL4の他に、小型のBoss RC-3 Loop Stationを入手し、そのステレオ機能を活かしてシグナルを異なるアンプに送るために、2台のMorley George Lynch Triplerを使用しました。その内1台のTriplerは基本的にキルスイッチとして使用していましたので、アレンジを作成するために各パートを出し入れすることができました。


“きらびやかなリバーブにご注目!”と言わんばかりに、リバーブだけが悪目立ちしないよう注意を払っています。 — ジュリアン・ベイカー


自分のやり方は必ずしも“正しい”やり方だと言うつもりはありませんが、所有しているクセの強いハードウェアを組み合わせて使うにはコツがあって、頭の中で計算する必要があったのです。狙い通りの音に戻るには、文字通り実際には聞こえなかった部分の小節を数えなければなりませんでした。とてもややこしいので、実際に機材を前にしてでないとこれをどうやってこなしているのか説明できません。でも要するに、最初の2枚のアルバムに収録されているほぼすべての楽曲は、Line 6 DL4、Boss RC-3、そしてStrymon blueSkyを使用し、実際にこの方法でレコーディングを行ったということです。


最近Line 6 HX Effectsを使い始めたそうですが、それによりワークフローに何か変化はありましたか?


正直なところ、私はマルチエフェクト・ユニットを使うタイプではありませんでした。これまでにデジタル・ラック・ユニットで音作りをしているプログレッシブメタル/ジェント系の人を数多く見てきたので、マルチエフェクト・ユニットに対してはずっと懐疑的でした。彼らはたいていKemper Profiler RackかFractal Axe-FXのどちらかを使用していましたが、私には使いこなすのがとても難しいと感じていたのです。しかしこのHX Effectsペダルを入手して、コンピューターでHX Editソフトウェアを使い始めてから、その操作性がいかに直感的であるかに気が付きました。それにパッチのサウンドも最高です。


つまりそうした機器は、インパルス・レスポンスがスピーカーの振動をどのようにエミュレートしているか、作ろうとしているアンプ・サウンドではマイクがどこに配置されているかなど、セッティングの詳細を深く掘り下げることなく、優れたサウンドを実現できています。私のバンドでギターを弾いているマライア・シュナイダーは、Helix Rackユニットと大きなフット・コントローラーを所有していて、非常に複雑なトーンをHX Editソフトウェアで構築しているので、同じことがHelixでもできるということが分かりました。しかし私にとっては、過去に使用していたボードと同じように、幅広い用途に使用できる6基のペダルをすばやく呼び出し、思い通りにパラメーターを調整できるHX Effectsのほうが使い勝手が良いのです。




HX Effectsで頻繁に使用されているブロックとエフェクトを教えてください。


私が多用しているのはPlateauxとSearchlightsリバーブです。基本的に、そして特にパッドが必要になる場面では、ディケイタイムは目一杯上げて、ミックスの値はかなり下げるようにしています。“きらびやかなリバーブにご注目!”と言わんばかりに、リバーブだけが悪目立ちしないよう注意を払っています。リバーブはあくまで、元のギター・パートに少し違った雰囲気を持たせたり、軽やかさを出す役割でしかありません。


オーバードライブはMinotaurを使用することが多いですね。Klon Centaurとよく似ていて程良いミディアム・オーバードライブなので、ほとんどのパッチで使用しています。Minotaurは間違いなく頼りになるドライブです。それからTransistor Tapeディレイも、セット内のすべての曲に含まれるほぼすべてのパッチで使用しています。これも素晴らしいディレイです。


10-Band Graphic EQも頻繁に使用しています。FenderのAcoustasonicギターを使うときに重宝しています。フロントエンジニアが居るときは頼んでしまいますが、自分たちだけのときに、突然ギターの音に妙な周波数が入るようになった場合に、10-Band Graphic EQを使えばすぐに解決できます。このちょっとした調整で、自分のギター・サウンドの全体的なキャラクターも変わります。弾いている最中に、素早くRed SqueezeやDeluxe Compコンプレッサーを少し付加えたり、Noise Gateをオンにしたりできるのと同じような感覚です。ライブ中にこういったことがパパっとできるのは本当に助かります。




HX Effectsがライブに最適だと思う理由は他にもあります。私は昔ながらのアナログ・ストンプボックスが大好きで、スタジオで実験的なことを試すにはこういったペダルはもってこいです。このトラックで、どんな面白いサウンドができるかと思うとワクワクします。最近は、Electro-HarmonixのMod Rexポリリズミック・モジュレーターにはまっているのですが、クールで複雑なモジューラー・トレモト/フェイザー/フランジャー、そしてパニング・サウンドが数多く搭載されていて、使うのがとても楽しいですし、サウンドも素晴らしです。また、ライブとなると、サウンドチェックのときにサウンドを調整したり、そのショーに限ってディレイを編集する羽目になったりすることがあるので、そういった場合にも柔軟に対応できるHX Effectsは頼りになります。アナログ・ペダルは大好きですが、多数用意されたオプションから即座に好みのペダルを選べて、たった1台でサウンドを入れ替えたり編集できたりはできないですからね。


それと、フロントエンドに透明感あるサチュレーションを追加するために、Chase Bliss Automatone Preamp MkIIといった他の個性的なハードウェア・パダルを、HX Effectsと一緒に使用するのが大好きなんです。テンポ感あるクレイジーなフィードバックが欲しいときには、Empress Effects Echosystem Dual Engine Delayを組み合わせることもあります。


正直、ギアおたくであることを、オープンに語ってくれる女性シンガーソングライターは珍しいと思いますが、昔からそうだったんですか?


はい、ずっとこんな感じですよ。10代のときにサーカ・サバイブといったバンドのライブをよく観に行っていましたが、なるべく最前列に陣取るようにしていました。バンドを目の前で見たいからではなく、彼らのペダルボードに何か組み込まれているか知りたかったからです。今一緒にバンドをやっているドラマーのマット・ギリアムは、ペダルボードが見えるように私をよく肩車してくれていました。それを見た他の観客は、いよいよバンドがステージに出てくると勘違いして歓声を上げ始めるんです。そんなときは、振り返って皆に「私はペダルボードが見たいだけなの!恐らくあと10分は出てこないと思うからビールでも買ってくるといいわ!」って叫んでいたものです。


Photos: Christian Bertrand


HX Effects詳細: https://line6.jp/hx-effects/


ギタリスト、そしてライターでもあるジェームズ・ボルペ・ロトンディは、『Guitar Player』及び『Guitar World』の副編集長を務めており、『Rolling Stone』、『JazzTimes』、『Acoustic Guitar』、『Mojo』、『Spin』各誌にも多く寄稿しています。またミスター・バングル、ハンブル・パイ、フランスのエレクトロロックバンド、エアーのツアーにも参加しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。