ジェフ・シュローダー:アンビエント・サウンド Pt. 1 — “フリッパートロニクス”

 

ブライアン・イーノは、マーク・プレンダーガストの著書『The Ambient Century』(2000年発行)の序文で、空間を物理的・心理的にどのように知覚するかという点において、レコーディング及び電子技術が音楽体験を大きく変えたと論じています。


レコーディング技術と電子技術により、コンポーザーは実世界では不可能な視点や関係性を扱うことも可能になりました。プロデューサーやミュージシャンたちは、小さな音を増幅させたり、大きな音を小さくできることを知るようになったのです。そして、エコーと残響音を使用して、それらサウンドが完全なる仮想空間に配置されているように扱うこともできるようになりました・・・


環境音楽においてもうひとつ重要な要素は、映画のサウンドトラックです。これは何か別のことをサポートするために作られた音楽であり、映画の中で何かが起こることを意図した心理的予兆を喚起し、演技抜きでも何かが起こりそうだという心理状態をもたらします。


ペダルやラックマウント、プラグイン・エフェクトは次々と新製品が登場し、バーチャルな想像上の世界に属する機材を駆使してサウンド・メイクする、新たな面白い方法を生み出すギタリストもますます増えています。環境音楽を作るギタリストたちにとっては、エフェクト、そしてサウンドを形作りそれを様々に変化させるためにできることは、クリエイティブなプロセスそのものと言えます。最近アン・スリコウスキーと交わした会話で、彼女はペダルやエフェクトを、それ自体が楽器であると見なしていると話していました。したがって、環境音楽の制作においては、プレーヤー、ギター、そしてエフェクトの3つの異なるポジションから送られてくる振動が情報として耳に届いたときに我々がどのように反応するかという点において、それぞれ間の関係性にはわずかな違いが生じることになるのです。スリコウスキーが言うように、結局多くの場合、私たちはギターを弾くのと同じような感覚で、ノブを調節したり、エクスプレッション・ペダルを使いエフェクトをプレイしているわけです。アンは類まれなるミュージシャン、コンポーザー、そしてマルチメディア・アーティストです。是非彼女の作品をチェックしてみてください。


私はここ数か月、サマー・キャンプで上映されるスラッシャー映画のサウンドトラックの作成に励んでいました。ディレクターと音楽のディレクションについて話し合っているときに、ふたりともヴィンテージのシンセサイザーのサウンド、フィーリング、テクスチャーをとても気に入りましたが、私は、可能な限りギターを用いるほうがよりオリジナリティが出ると考えました。私がメインでプレイしているのはギターですから、キーボードよりも表現に富んだ作品を作れるはずです。方向性がはっきり決まったので、私はギターをHelixに繋ぎ、普段のルーティン化したやり方とは違うアプローチでパッチを作り始めました。私はイーノを師と仰いでいますので、いわゆる“フリッパートロニクス”の手法を用いてサウンドのバリエーションを作成することにしたのですが、いくつか素晴らしい結果を得ることができました。この“フリッパートロニクス”とはどんな手法かご存じでしょうか?




1972年のことですが、キング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップは、ロンドンのイーノの自宅での夕食に招待されました。ロバートが到着したとき、イーノは2台のRevoxオープンリール式レコーダーを使用し、テープループ・システムを構築しているところでした。それは1台のフィード・リールがもう1台のリールに音を送り、2台目のマシンの出力信号が1台目の入力にフィードを送り返す仕組みになっていました(このテクニックは、コンポーザーのテリー・ライリーとポーリン・オリヴェロスが開発したものです)。フリップは21分にも及ぶギターでの即興演奏を、このルーピング・システムを使ってプレイし、その後でソロをオーバーダブさせました。このパフォーマンスは、1973にリリースされたフリップ&イーノのアルバム『No Pussyfooting』のA面に収録されています。


私は過去に、イーノがテープ・マシンでやったことの簡素化バージョンをHelixのプリセットで作成したことがありました。しかし、環境音楽をギターで作る際のテクニックやサウンド・メイキングに関する貴重な情報を発信しているビル・ヴェンシルのYouTubeチャンネル『Chords of Orion』を観て、フリッパートロニクス・スタイルのプリセットを作るより良い方法があったことに気が付いたのです。本記事でご紹介するプリセットを作る際に、モデリング領域内でフリッパートロニクスをシミュレートするヴェンシルのアプローチが非常に参考になりました。彼が2種類のHX Stompのプリセットで解説する動画はとても有益ですので、ご覧になることをお勧めします。


ビル・ヴェンシル:Line 6 HX Stomp Frippertronics: I Show You 2 Patches!


ひとつ目のプリセット、Frippertronics 1は、私が頻繁に使うプリセットを少しスケールダウンしたバージョンで、ヴェンシルのプリセットに似ています。


かなりシンプルにまとめたこのプリセットから始めてみて、長いディレイ、そしてリピートのかかった状態でプレイすることにまずは慣れるのが良いでしょう。ここでは、音を鳴らした際に何が起きているかが聴き取りやすいように、クリーンなアンプを採用しています。Helix Looperは、オーバーダブのレベルを下げることで、リピートをフェードさせることができるということを、ヴェンシルの動画で学びました。



このプリセットでは、レベルを-1.7dBに設定していますので、各リピートが聴こえなくなるまでに、前のリピートよりも1.7dB音量が下がるということになります。レベルを下げると、リピートの蓄積度を減らすことができます。Overdubのコントロールを0dBに設定すると無限ループの領域に入りますので、かなり異なるサウンドに変化します。


ディレイ・タイムの設定は、慣れてしまえばとても簡単です。ストンプ・モードに切り替え、6 Switch Looperフットスイッチを押します。次にRecordフットスイッチを押し、ディレイをスタートさせたいタイミングまで時間をカウントします。頭の中でカウントしても良いですし、タイマーやメトロノームを使うのもひとつの手です。まずは3~4秒ほどの短い時間から試すことをお勧めします。時間が決まったらStop/Playフットスイッチを押し、今度はRecordフットスイッチを押しましょう(これでオーバーダブ・モードになります)。これでフリッパートロニクスのテクニックを使った演奏をする準備が整いました。


私の場合、ここからルーパー・モードを終了しストンプ・モードに戻ることがほとんどです。また、ヴィンテージのテープ・マシンのサウンドをプリセットに追加するために、シグナル・チェーンの後半にRetro Reelも追加しているのもポイントです。


このプリセットを使用して、Ebowあり/なし、2パターンのサウンドを作成しました。


Example 1: Clean1

Example 2: Ebow1

どちらの例でも私は常にボリューム・ペダルに足を乗せ、初動のアタックを緩和させ、ノートが固くなりすぎないようにしています。


ふたつ目のプリセット、Frippertronics 2はFrippertronics 1プリセットを拡張し変更を加えたバージョンになります。



このプリセットでは、Ganymedeの代わりにピッチ・シフターと2種類のモジュレーション・エフェクトを追加しました。Overdubのレベルを少し下げている(-2.7dB)ことにお気づきかと思います。これでリピート頻度は少し下がります。



ここで追加されたエフェクトにより、昔ながらの伝統的なギター・サウンドの特徴はぐっと抑えられ、音響的には半ばシンセサイザーの領域に変化します。


Example 3: Frippertronics2

最後のプリセット、Frippertronics 3は、より多くの要素がシグナル・チェーンに加えられています。



プリセット1/2と大きく異なる点は、ディストーションのかかったトーンを使用し、ルーパーの代わりにSimple Delayを採用していることです。このプリセットもヴェンシルのプリセットからヒントを得て、時間をかけ徐々にフェードするディレイを実現しました。



モノラルのSimple Delayは最大8秒のディレイ・タイム設定ができますので、かなり長さのあるループを作ることが可能です。またこのプリセットではディレイのTrailsをオンにしています。Feedbackの値を上げると、リピートを打ち消さずにディレイがない状態にすることできます。これは基本的にテープ・マシンの録音ヘッドを一時的にオフにするようなもので、録音をせずに再生することができます。


ディレイのリピートがフェードし始めたときにディレイをオンに戻せば、アンビエンスを途切れなく作り出すことができます。エクスプレッション・ペダルがもう1台ある場合は、それでフィードバックの量を調整し、録音モードを終了したときにリピートがより長く残るようにすることもできます。またエクスプレッション・ペダルの代わりに、WhammyエフェクトをMomentaryフットスイッチに追加している点にもご注目ください。



そして最後に、このプリセット内にモジュレーション・エフェクトを追加したスナップショットも用意しました。とは言え、私はこのプリセットについてはノーマルのスナップショットの状態で保持し、プレイしながらマニュアルでエフェクトをオン/オフするほうが好きです。最後のサウンド・サンプルでは、このプリセット内にあるエフェクトの多くがアクティブになっているのがお分かりいただけると思います。


Example 4: Frippertronics3

今回これらのプリセットとサウンド・サンプルを作成するにあたり、Black Catのミニハムバッカーが搭載されたYamaha SG1802を使用しました。いつものごとく、ご自身が使用されているギターやプレイスタイルに合わせて、これらプリセットをいろいろと試してみてください。



Main Photo: Travis Shinn


ジェフ・シュローダーは、ロサンジェルスを中心に、スマッシング・パンプキンズとナイト・ドリーマーのギタリストとして活躍するミュージシャンです。ギターの他には、コーヒーと20世紀の実験文学が大好物です。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。