アーティスト

井上銘×HX Stomp & HX One
導入ストーリー

“そもそもギターはダイナミック・レンジが狭い
でもHX StompやHX Oneを使えば、空間のすべてをギターで表現できます”

多彩なフレーズのみならず、瞬間的なサウンドメイクで音像を含めた“場”をインプロバイズする稀有なギタリストであり、新たなジャズ・シーンを牽引する井上銘氏。長らくLine 6 製品を愛用、ディレイ・モデラーDL4に始まりエフェクト・プロセッサーM9やM5、そしてHX Stompは発売直後よりメインボードに導入している。ここではMシリーズとHXファミリーのサウンドを知り尽くし、用途に応じてさまざまな形態のペダルボードを操る井上氏に普段使いのHX Stompの役割について、そして取材前にHX Oneを試用いただき、HX Oneを追加導入することでもたらされる音楽的な可能性などについて訊いた。


本記事で紹介している製品:
HX Stomp  https://line6.jp/hx-stomp/
HX One  https://line6.jp/hx-one/


HX Stompが僕のシステムの心臓

──まずはHX Stompを導入するまでの流れを教えてください。
 Line 6製品との付き合いは、10代の頃に初代のDL4を手に入れて始まりました。DL4は当時、有名なギタリストのボードには必ず入っていましたし、ビル・フリゼールが使っていた影響もあって手に入れました。とても気に入って長く使った後に、M9をやはり長く使って、M9と入れ替える形でHX Stompを発売直後に入手したんです。

──HX Stomp導入の決め手は?
 まずはM9よりさらにコンパクトなところがいいですよね。それと、サポートの時に音の切り替えも含めて細かい指示があるときには、「スナップショット」機能が便利です。そして何よりDL4を使って以来、Line 6のディレイのファンだから、新しいモデルが気になったということもあります。Line 6のディレイの音が好きですし、エクスプレッション・ペダルを使ってディレイ・タイムを動かした時の“グニョッ”とした音も大好きで、一時期は他のディレイも随分試したんですが、結局このニュアンスを出せるものが他にはなくてLine 6に戻ってきました。HX StompもDL4からのディレイ音を受け継ぎつつ、現代的にブラッシュアップされていて、そこが気に入っています。

──ではHX Stompは空間系のエフェクトとして使うことが多いのですか?
 そうですね。HX Stompはメインのボードの最後に置いていて、HX Stomp内のチェーンにはほとんどディレイとリバーブが並んでいます。加えてFX Loopを設けていて、サブのペダルボードをそこに繋いで完結することもあるし、今日のようにHX Stompの後に直列でサブのボードを繋ぐこともあります。HX Stompは空間系のサウンドの核で、メインのボードとサブのボードを繋ぐものでもあり、僕のシステムの心臓と言えます。演奏活動において最も重要な部分で、もしもHX Stompがないんだったら僕にとっては直アンで弾くのと同じことだというくらい重要なポジションにあります。


井上銘氏のHX Stompのシグナル・チェーン。ディレイ3つ、リバーブ2つ、モジュレーション1つが並んでおり、その内訳は、「Input」→「Minotaur」→「FX Loop」→「Pitch Vibrato (レガシー)」→「Digital (レガシー)」→「Auto-Volume Echo(レガシー)」→「'63 Spring (レガシー)」→「Analog Echo (レガシー)」→「Ganymede」→「Output」となっている。DL4から継承されているレガシー・モデルを多く選択されている点が、元来DL4を愛用していた井上氏らしいチョイスとなっている。また、インタビューにもあるとおり、会場の規模や状況に合わせて、サブのペダルボードを「FX Loop」に入れるか、直列でメインのボードの後に繋ぐかが決定される。


HX Stompに他のペダル組み合わせると可能性は無限大

──動画のデモ演奏の音作りについて教えてください。
 デモ演奏では、メインボードの音をギター・アンプ(Line 6 Catalyst 100)から出力し、サブボードの信号はラインでミキサーへ送って、パワード・スピーカーからステレオで出しています。3つの音が空間上でミックスされて、より立体的な音像になっていると思います。

──その中で、HX Stompをどのように使っていますか?
 「Digital」でショート・ディレイ、「Analog Echo」でロング・ディレイを作って、主にそれらを使っています。単体、または組み合わせて使うんですけど、そこにエクスプレッション・ペダルを絡めて操作しています。

──エクスプレッション・ペダルにはどのパラメータをアサインしていますか?
 それは選択するモデルによっても少し異なるのですが、「Digital」「Analog Echo」ならタイム、フィードバック、ミックスです。それらが一気に変化するので、かなり面白い効果が得られますよ。「Auto-Volume Echo」はタイム、フィードバック、デプス、スウェル、ミックスを一気に動かせる設定になっていて、破壊的なサウンドが欲しいときにピッタリです。リバーブの「Ganymede」に関してはミックスのみをアサインしていますが、これによって残響の深さが変わる感じで、サウンド全体では立体感が変化します。先ほどの「Digital」「Analog Echo」の2種のディレイとリバーブの「Ganymede」 、これらを組み合わせて複雑な音像を作り、さらにエクスプレッション・ペダルで多くのパラメータを一気に動かすといったことがHX Stomp 1台で完結できます。さらにそこに他のペダルを絡めると、可能性は無限大ですよね。


無償のエディターソフト「HX Edit」を使って確認した、井上氏のプリセット・データ内ディレイ・モデル「Digital」の様子。パラメータ左横に白く「EXP1」のマークが付いており、これらを外部エクスプレッション・ペダルにアサインしている。複数のパラメータを一気に変更し、サウンドに複雑で有機的な動きを加えるのが井上氏のスタイル。


ギター・サウンドの未来を見ることができる

──今回の取材に際して、HX Oneを事前にライブなどで試用していただきました。井上さんの環境ではどのように使われましたか?
 まず、非常にコンパクトながらステレオのアウトプットを2系統使えることが僕にとって大きかったですね。今日のようにギター本来の音をHX Stompのアウトからアンプとサブボードへ送り、サブボードの最終段にHX Oneを置いて、そこからステレオで出すといった複雑な音像を簡単に作ることができます。

──HX Oneの具体的な設定は?
 今日のデモでは「Transistor Tape」を使いました。これもエクスプレッション・ペダルでタイムやフィードバックを動かしています。この音は(前方に井上氏に向けて設置した)パワード・スピーカーからしか出ないので、音の芯の部分は変化させずに、後ろで鳴っているエフェクト音だけを動かしたい場合はHX Oneとエクスプレッション・ペダルを操作します。他には「Poly Pitch」も使っていて原音にハーモニーを加えています。メインボードとサブボードの間にはボリューム・ペダルを置いているので、それを操作することで、原音のみをアンプから出し、ハーモナイズされた音をパワード・スピーカーから好きな音量で加えることができます。この音も、好きですね。

──機能性の面ではいかがでしたか?
 FLUX(※複数のエフェクト・パラメータを同時に予め設定した時間内で変化させられる機能)は面白いと思います。エクスプレッション・ペダルとは違って、機械的なパラメータの変化の仕方なんですけど、僕はエクスプレッション・ペダルを使ってすべてをコントロールしたい反面、コントロールできない何かも起こってほしいと思っているので、FLUXを使うことでエクスプレッション・ペダルとは異なるパラメータの動き方をさせたいですね。

──HX StompとHX Oneを合わせて使うメリットというと、いかがでしょうか?
 HX Oneはこれ1台の中にいろいろなサウンドが入っていて、単体でもこれを1つボードに入れておくと最高なんですけど、HX Stompと組み合わせるとその分身のような働きをしてくれるんですよね。僕は以前から、ギターは弦が6本しかないこともあって、ピアノなんかに比べるとダイナミクスが小さいなと思っていたんです。でもHX StompやHX Oneを使えば空間のすべてをギターで表現することができます。Line 6のテクノロジーを使うことで、ギターの未来を見ることができると思っています。

──最後に、HXファミリー製品の導入を考えている人にアドバイスをお願いします。
 どれもプロユースのクオリティを持った製品ですし、どんな現場でも使えます。価格もすごくいいと思うんですよ。高いと感じる人もいるかもしれませんが、いろいろ考えるとむしろ安いんじゃないでしょうか。だから、とりあえず買ってみるということで、いいと思います。


HX Stomp(写真右)は、世界中のギタリスト/ベーシスト/クリエイターから支持されるHXモデリングを搭載したアンプ/エフェクト・プロセッサー。HXファミリーの中でもコンパクトなサイズながら、一台完結のギター/ベース・リグとして使用できる“スーパー・ストンプボックス”となる。
HX One(写真左)は、9V電源のほかペダル用電源が使用でき、ペダルボードに組み込みやすいようコンパクトに設計されたステレオ・エフェクト・ペダル。HXファミリー・プロセッサーから受け継いだ250種類以上のエフェクトを搭載し、サウンドのみならずアナログの挙動まで再現する完成度の高さを誇る。ペダルボード内の“万能ナイフ”として活用できる。



西田修大

井上 銘
1991年5月14日生まれ。神奈川県川崎市出身。15歳の頃にギターを始め、高校在学中にプロ・キャリアをスタート。2011年10月EMI Music Japanよりメジャー・デビュー・アルバム「ファースト・トレイン」を発表。2012年1月に同作で「NISSAN PRESENTS JAZZ JAPAN AWARD 2011」アルバム・オブ・ザ・イヤー(ニュースター部門)を受賞する。2013年11月に Universal Musicより2ndアルバム「ウェイティング・フォー・サンライズ」をリリース。2016年4月、同年代の精鋭ミュージシャン達とのPOPSユニット“CRCK/LCKS(クラックラックス)”として「CRCK/LCKS」を発表。2016年6月にはブルーノート東京で世界最高峰のジャズ・ギタリストKurt Rosenwinkelと共演する。2017年、自身の新しいユニット”STEREO CHAMP” (類家心平tp、渡辺翔太keys, pf、山本連b、福森康ds) を結成。同年6月21日、ReBorn Woodより意欲作となる「STEREO CHAMP」をリリースした。近年はSTEREO CHAMPを始め自身発信のプロジェクトに加え、ソロ・ギター・ライブも積極的に展開する。ジャズ・ギターのフィールドを押し広げることができる稀有なギタリストとして、世界中から注目を集めている。

◎オフィシャルウェブ: https://mayinoue.com/
◎オフィシャルX:https://twitter.com/may_inoue0514

取材・文:井戸沼尚也
写真:星野俊
動画撮影・編集:熊谷和樹
録音:嵩井翔平


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