TIPS/テクニック
アコースティック・ギターのレコーディング
アコースティック・ギターのライブ演奏では優秀なアコースティック・ピックアップが不可欠な存在となっていますが、スタジオ・レコーディングでは (James Tyler Variaxギターを使用する場合を除き)、適切なマイキングに代わるものはありません。これは自宅で実行するのも難しいことではなく、自宅の部屋でも想像以上に優れたサウンドが得ることが可能です。
マイクの選択
自宅でアコースティック楽器 (またはボイス) をレコーディングするならば、ラージダイアフラム・コンデンサー・マイクの購入は大きな価値があります。中には1万円を切るものもあり、その一方で非常に高価な製品も存在しています。こうしたマイク、特に低価格のものには指向性が1種類しかない場合もありますが (その多くは単一指向性)、指向性を切り替えられるコンデンサー・マイクもあります (私がこのブログに使っているマイクもそうです)。単一指向性マイクは、マイクの正面から来る音を拾い、背面から来る音をリジェクションします。双指向性マイクは正面と背面からの音を均等に拾い、側面からの音をリジェクションします (1本のマイクで2人のシンガーを録音する際に使うと、他の楽器を拾わないようにできるので便利です)。無指向性(オムニ)マイクはマイクの周りの音を全部拾います。また、80 Hz辺りから下の低域をフィルタリングしてしまうロールオフ・スイッチや、ゲインを下げるPadスイッチ (大音量のソースを録音する際にマイクがオーバーロードするのを回避する) が用意されていることも多くあります。
この記事のサウンド・サンプルは、M-Audio Sputnik真空管マイクの単一指向性パターンと無指向性パターンを使って録音しました。低域カット・スイッチやPadスイッチは使っていません。オーディオ・インターフェースにはLine 6 TonePort UX8を、レコーディング・ソフトウェアにはPropellerhead Recordを使いました。
マイクのセッティング
アコースティック・ギターを録音するにあたり、まずは手始めにマイクを12フレットの正面に来るようにして、できるだけ自分に近づけます。最初の2つのサンプルでは12フレットの正面、8~10cmほどの距離にマイクを立てました。フレットを押さえる手がマイクに触れてしまわない程度の距離です。
サンプル1 (単一指向性) と サンプル2 (無指向性) とを聴き比べてみましょう。サンプル2では、マイクの周囲の音が全て、背面を含めて拾われているため、ルーム・アンビエンスと反響がやや多く聴き取れます。サンプル1 (単一指向性) ではピックのアタックがより強調され、全体に明るいサウンドになっています。これは、弦とピック (マイクの正面) の音がより多く拾われ、マイクの背面からの音は拾われていないからです。
次の2つの例では、直接サウンド・ホールに向けてマイクを立てました。ブーミー(低音域が強過ぎる状態)にならないよう、サウンド・ホールから20 cmほどマイクを離しました。ここでもサンプル1 (単一指向性) は、ピックのアタックが強調されて明るいサウンドになっています。さらに、近接効果によって低域も強調されています。この近接効果とは、SM58などの単一指向性ボーカル用マイクに口を近づけ過ぎると声がブーミーになる現象のことです。サンプル2 (無指向性) では低域がそれほど目立ちません。これは、無指向性のパターンでは近接効果が生じないためです。低音域が過度に強調されるのを防ぐため、普段は私はサウンド・ホールにマイクを向けないようにしています。でも今回のケースでは、単一指向性パターンのサウンドが気に入っています (ただしミックス時には低音域を多少ロールオフしてトラックへ馴染むようにします)。
ルーム・アンビエンスの作成
自宅の部屋では大して良い音が録れないに違いないから、良い音の空間をシミュレートするにはリバーブ・プラグインを使うしかないと考えていませんか? 後から優れたリバーブを追加するという方法は確かに有効ですが、本物の部屋の初期反射はそう簡単に真似できるものではありません。クローズ・マイクでサンプルを録音する際に、自分から1~2 m離れた場所にステレオ・ペアのAKG C1000Sスモールダイアフラム・コンデンサー・マイクも (XY方式で) 立てておきました。もう一度単一指向性によるサウンド・ホールのサンプルを聴いてから、同じ録音ですがステレオ・ペアのマイクが一緒に使われたこのサンプルを聴いてみてください。音の拡がりとステレオ成分がどのぐらい加わったでしょうか? これは音響処理の行われた部屋での録音ではありません。堅木張り (ラミネート) の床に打ちっ放しの壁という、小さなアパートの反響の多い部屋で録音しました。実際の部屋の初期反射によるルーム・リバーブはそのまま残し、必要な場合はより長いリバーブを加えることもできます。
クールなトリック
最後に、お勧めのテクニックをご紹介します (サンプルは掲載していません)。同じギター・パートを2回、別のトラックに録音します (マイクはギターの近くに設置します)。その後、一方のトラックを左、もう一方を右端にパンします。
1本1本のギターに違いがあるように、マイクや演奏者、曲、空間も、同じものは1つとして存在しません。今回はギターのレコーディングに関して少しばかりアドバイスしましたが、皆さんがレコーディングを行うときには失敗を恐れず、自分の耳を頼りに臨んでください。
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