Line 6 全般

Line 6 “ドリーム・リグ” レビュー

2012.06.15

このレビューは「Electronic Musician」誌2012年7月号に掲載された記事を、許可を得て翻訳したものです。

1+1+1=3なのであれば、それは“ドリーム・リグ”とは言えないでしょう。Line 6によるシステム指向のアプローチでは、むしろ1+1+1=6となります。VariaxがPOD HD500とコミュニケートし、HD500はDT25アンプとコミュニケート。しかもLine 6 Linkを活用すると、POD HD500はDTとコミュニケートする以上の能力を発揮します。このレビューではJTV-59 VariaxとDT25アンプ、HD500を使用していますが、ドリーム・リグに関して言うと、他の5種類のVariaxモデルのほか、よりパワフルなDT50アンプ、またPOD HD300やHD400なども範疇に入るでしょう。

スペシャル・ソースPart 1

オリジナルVariaxはテクノロジー面で高い評価を受けましたが、James Tylerの承認を受けた再ローンチでは、ギターそのものを非常に重視。6種類のモデルが用意され、スタンダード・シリーズの価格は135,000円から155,000円となっています。その中でも最も高価なモデルがシングル・カッタウェイ、デュアル・ハムバッカーのJTV59 (レスポールの流儀を継承) であり、これ以外にストラトっぽいJTV-69 (ビブラート・テールピース、ボルトオン・ネック、648mmスケール長)、そしてリバースヘッド仕様で2ハムバッカー、24フレットのJTV-89がラインナップされています。カスタムショップ・ギターは米国製で、価格はスタンダード・シリーズ・モデルの2倍以上。素晴らしいギターですが、率直に言って低価格なスタンダード・モデルも見事にクラフトされており、演奏性も高い上、エレクトロニクスの面で言えば、よりお買い得だと言えます。

これらのギターは革新性も備えています。18種類のビンテージ・タイプ (レスポール、ES-335、ストラト、テレキャス、リッケン、グレッチなど)、2種類の12弦を含む5種類のアコースティック・モデル (このレビューの執筆中にはアップデートも行われました)、そして、そのどちらにも含まれない楽器として、Coralシタール、リップスティック・ピックアップを装備したダンエレクトロ、トライコーン・レゾネーター、ドブロの5種類の、計28種類ものギター・エミュレーションを搭載。また、11種類の変則チューニングにも瞬時にアクセスできる上、自分で作成することもできます。サウンドとチューニングの組み合わせをカスタマイズすることも可能で、それぞれが異なるチューニングに設定された5種類のRickenbacker 360 12弦ギターで構成されたバンクを作成することもできます。その上、ピックアップやエレクトロニクス、木材の加工無しにネックやボディを変更できる素晴らしいVariax Workbenchソフトウェアもがパッケージに収められています。

オリジナルVariaxとは異なりJames Tyler Variaxにはスタンダードなピックアップが搭載され、電池無しで通常のエレクトリック・ギターとして機能します。別の言い方をすれば、オリジナルVariaxを演奏する理由がテクノロジーを使うための唯一の方法だったからなのに対して、新しいVariaxを演奏する理由は、楽しく演奏できるからというのが違いです。

JTV59_TS
6種類用意されたJames Tyler Variaxのモデルのうち、JTV-59はLes Paulの流儀を継承しています。

スペシャルソースPart 2

オリジナルPODと比較すると、HDテクノロジーは大幅なアップグレードを体現していますが、POD HD500にはそれ以上のものも搭載されています。ステージ機材としてのルック&フィール (さらにはフットペダルを含めて頑丈な構造) を備えるだけでなく、処理されたシグナルをDAWへデジタル接続できるS/PDIF出力などスタジオと相性の良い追加機能も搭載されており、HD500のプロセス・サウンドをゼロレーテンシーでモニタリングできるのでリアンプにも最適です。さらにPOD Farm 2同様のグラフィックを持ったUSB 2.0対応のエディット・ソフトウェア (もちろんオーディオのエディット機能は非搭載) やデジタルVariax入力、L6 Linkオプション (詳細は後述) も利用できます。

エフェクト・ループはギターレベルまたはラインレベルのプロセッサーをドライブでき、3つのトリム・スイッチでギター入力のPADのオン/オフ、XLRのグラウンド・リフト/ノーマル、1/4”出力のライン/アンプのレベル切り替えに対応しています。パラレルな2系統のエフェクト・チェーンによりL/Rで異なるアンプとキャビネットを使用でき、以前のPODを比較するとモデリングも細部まで実現しているため、ドライからディストーションへのブレークアップが、よりスムーズでグラデーションまで表現できています。

分かりやすいエディター/ライブラリアンが用意されており、パッチの作成やストアが大幅に簡略化されるのに加えて、レコーディング中も有効にしておけるので、プログラムを開いたり閉じたりせずに調整を行って、レコーディングする作業を続けられます。

ここで2つの注意点を。ノブを使う際はディスプレイを見ずに作業するのは難しいですが、シリアスなプログラミングの際には恐らくエディット・ソフトを使うことになるでしょう。また、プリセットの多くは楽器店で印象的なサウンドを生み出すように意図されているようですが、私はアンプと慎重に選択したキャビネット、マイク、さらにEQともう1種類のエフェクト程度にプリセットを削ぎ落とすことで、より音楽的なサウンドが得られると思います。プリセットがユーザーと同じセットアップでプログラムされることは稀であり、例えば私は大抵ドライブを下げる必要がありますが、それはよりヘビーなゲージの弦をサムピックを使っているからです。たまたま出会ったプリセットと、ユーザーのスタイルに最適なサウンドとの違いを生み出すのは、ちょっとした調整なのです。

hd500
POD HD500はサウンド・クオリティをアップデートしているだけでなく、ステージ指向とスタジオ指向を融合させています。

スペシャルソースPart 3

Bognerと共同デザインされた1×12仕様のDT25は、真空管アンプの流儀を打破する存在です。伝統的なアンプは単一のキャラクターを持っており、そのキャラクターの範囲でサウンドを変更できます。それに対してDT25の場合は、アンプの根本的なキャラクターそのものを変更可能です。従来通りの方法でフットスイッチ切り替え可能な2チャンネル仕様ですが、ボイシング/トポロジーを4種類 (アメリカン・クリーン、ブリティッシュ・クランチ、クラスAチャイム、モダン・ハイゲイン) から設定できるほか、クラスA (10W) またはクラスAB (25W) 動作、三極管または五極管の真空管キャラクターの選択が可能です。入出力にはキャビネット・シミュレーション搭載のトランスカップリング・ダイレクト出力、エフェクト・ループ、ボリュームが低くてもトーンを維持できる“ローボリューム”モード、MIDI、L6 Linkも用意されています。

DT25は素晴らしいアンプですが (特にレコーディング)、その理由は優れたサウンドだというだけでなく、サウンド・キャラクターのバリエーションが非常に幅広い点にあります。Variaxが異なるギターのサウンドをエミュレートするのと同様、DT25は異なるアンプのサウンドをエミュレートできます。でも、これで終わりではありません…

dt25
DT25アンプはデジタル・モデリングでなくアナログ回路の巧みな変更により複数のキャラクターを実現しています。

スペシャルソースPart 4

シナジー効果は重要です。HD500にはVariax入力が用意されているため、Variaxの設定をプリセットへストアできます。L6 Linkは双方向のコントロールと一方向のデジタル・オーディオを提供し、HD500はXLRケーブル1本で最大4台のDTファミリー・アンプとのコミュニケーションを実現 (最長6mで、AES/EBUケーブルを使えばさらに延長可能)。例えばHD500で特定のアンプ・モデルを呼び出すと、DTアンプは選択されたアンプの特徴を反映するよう、アナログ領域で、それ自身が再コンフィギュレーションします。アンプの設定をHD500のプリセット内に保存したり、HD500をDT25のエフェクト・ループに置いたり、HD500の設定を調整してそれをDT25へ自動的に反映させたり (または、その逆)、DT25のノブを回してHD500のプリセットをエディットしたり、といったことが可能です。HD500内で、マグネティック・ピックアップとVariax出力をHD500内で同時にプロセスすることもでき、フットペダルやVariaxのトーン・ノブでリアルタイムにブレンドしたりできます。

このドリーム・リグの“夢”の部分には2つの要素があります。まずは、モデリング・ギターとスタンダードなピックアップ、モデリング・アンプ、本物のアンプ、DSP、真空管など、ほぼ無限のトーン・バラエティを実現できる能力。70年代、私がスタジオ・ワークを行っていた当時にこのシステムを所有していたら、世界制覇できたかもしれません。

もうひとつの要素は、利便性です。変則チューニングを使うためにギターを変えたり、あるいは不便さから変則チューニングを避けていたのであれば、それがいまやロータリー・スイッチを回すだけで可能になりました。サウンドやチューニングを演奏中に踏み分けることができ、VariaxとDT25、HD500の設定をPOD HD500のプリセット1つに統合できます。

各コンポーネントは、それぞれが秀逸なものです。しかし、その全てを統合することで夢のシステム、つまりドリーム・リグを手にできるのです。

【オーディオサンプル】

JTV-59 MagPups

JTV-59本体に搭載されるピックアップのサウンド。フロント、フロント+リア、リアの順。

JTV-59 Reso Bank

風変わりなサウンドを収めたResoバンクのサウンドを、Triconeレゾネーター、シタール、Danelectro 3021、バンジョー、ドブロの順番で演奏。シタールはドローンをバックグラウンドに追加し、リードをオーバーダブしています。ドブロ、Tricone、Danelectroは変則チューニングを使用。

JTV-59 Alternate Tunings

プリセットされている変則チューニングを以下の順番で、6弦を順番に、次にコードで演奏しています。スタンダード、ドロップDG、レゾネーターG、オープンA、バリトン、ハーフトーン・ダウン、ドロップDb、半音下げ、DADGAD、オープンD、ブルース。

James Tyler Variax JTV-59: オープン・プライス (市場参考価格: 155,000円)

POD HD500: オープン・プライス (市場参考価格: 54,800円)

DT25 112アンプ: オープン・プライス (市場参考価格: 89,800円)

Originally printed in the July 2012 issue of Electronic Musician. Reprinted with the permission of the Publishers of Electronic Musician. Copyright 2008 New Bay Media, LLC. All rights reserved. Electronic Musician is a Music Player Network publication, 1111 Bayhill Dr., St. 125, San Bruno, CA 94066. T. 650.238.0200. Subscribe at www.musicplayer.com

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